研究成果

高価なヒト由来酵素が微生物酵素で代替可能に― 新しい機能性食品の開発や人、動物の医薬への応用に期待 ―

関連プログラム:
第4期中長期計画 » 高付加価値化

令和2年2月27日
国際農
株式会社ペプチド研究所

 

高価なヒト由来酵素が微生物酵素で代替可能に
― 新しい機能性食品の開発や人、動物の医薬への応用に期待 ―

 

 ポイント

  • ヒトの血圧調節に関わる酵素と類似の作用を示す微生物酵素「B38-CAP」を同定し、大量生産に成功
  • マウスへの投与によって血圧降下や心不全の症状改善等の効果を確認
  • 新しい食品機能性の検出技術を確立
  • 新規機能性食品の開発や医薬への応用に期待

概要

国際農研は、秋田大学、秋田県総合食品研究センター、医薬基盤・健康・栄養研究所、株式会社ペプチド研究所等と共同で、血圧降下や心不全改善等に寄与するヒトのアンジオテンシン変換酵素2(ヒトACE2)1)とよく似た作用を示す酵素「B38-CAP」を微生物から同定し、大量生産することに成功しました。これらの酵素は食品素材に含まれる、健康に有用な成分の検出に用いられます。大量生産が難しかったヒトACE2の代替酵素として、B38-CAPを同定したことにより、新しい食品機能性の検出方法が確立されました。さらに、B38-CAPをマウスに注射すると、血圧降下や心不全の症状が改善されるなどの効果が見られたことから、人や動物に対する医薬品としての可能性も期待されます。

本研究成果は、国際科学専門誌「Nature Communications」電子版(日本時間2020年2月26日19時)に掲載されました。

関連情報

予算:運営費交付金
特許:特許第6535960号, 特願2018-165890

発表論文

論文著者
T. Minato#, S. Nirasawa#*, T. Sato#, T. Yamaguchi, M. Hoshizaki, T. Inagaki, K. Nakahara, T. Yoshihashi, R. Ozawa, S. Yokota, M. Natsui, S. Koyota, T. Yoshiya, K. Yoshizawa-Kumagaye, T. Gotoh, Y. Nakaoka, J. M. Penninger, H. Watanabe, Y. Imai, S. Takahashi, K. Kuba*
#equal first author, *corresponding author
論文タイトル
B38-CAP is a bacteria-derived ACE2-like enzyme that suppresses hypertension and cardiac dysfunction
雑誌
Nature Communications (2020) DOI:10.1038/s41467-020-14867-z

問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 岩永勝
研究推進責任者:プログラムディレクター 山本由紀代
研究担当者:生物資源・利用領域 韮澤 悟
広報担当者:企画連携部 情報広報室長 山﨑正史 
Tel:029-838-6708   FAX:029-838-6337 プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。
※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

 

背景

アジア地域在来の農林水産物や伝統発酵食品などの食料資源の中には、健康機能性食品や新たな加工食品の原料として利用できるものが数多くあります。また、地域固有の原料や製造方法で生産された食品からは、これまでに知られていない新たな機能性成分などが見つかる可能性があります。

国際農研では、食品の機能性成分の解明や食品産業での活用を図る技術開発の一環として、血圧降下や心不全の症状改善等に寄与するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用した機能性成分検出技術の開発に取り組んできました。しかし、ACE2はアミノ酸が結合したタンパク質の一種で、糖分子や細胞結合部位を含む複雑な構造をしているため、人工的に大量生産することが難しく、利用を阻む要因となっていました。一方、バクテリアのような微生物のタンパク質の多くは、アミノ酸のみから成る単純な構造をしているため、大腸菌などを用いて安価で大量に生産することが可能です。そこで、微生物からACE2の働きを有する酵素を検索し、ACE2の代替酵素となりうるか検証しました。

内容・意義

国際農研では、酵素の反応メカニズムに着目し、ACE2と同じ作用をもつ微生物酵素を探索しました。哺乳類由来のACE2と微生物の酵素は、進化の過程で構造が変化していき、両者のアミノ酸配列や全体の立体構造は大きく異なっていますが、反応を司る部分(活性部位)の構造が局所的に保存されている場合があります(図1)。そこで、タンパク質や遺伝子情報に関する各種データベースを活用し、ACE2の活性部位と同じ構造を持つ微生物酵素を検索した結果、Paenibacillus(パエニバチラス)B38株由来のB38-CAPを見出しました。さらに、大腸菌を用いてB38-CAPの大量生産に成功しました。

B38-CAPとヒトACE2の酵素活性を試験管内で比較したところ、ヒトの血圧等調節ホルモンであるアンジオテンシンIIを分解する等、大変良く似た活性を示しました。また、B38-CAPをマウスに投与すると、ヒトACE2を投与した場合と同様に血圧降下や心不全の症状改善等の作用を示しました。以上のことから、B38-CAPがヒトACE2の代替酵素として利用できることが明らかになりました(図1)。これにより、ヒトや動物の酵素を起源の異なる微生物由来の酵素で代替できる可能性が示されました。

今後の予定・期待

この研究において、B38-CAPを利用した新しい食品機能性の検出方法が確立されました。アジア地域では、近年の経済発展に伴い、健康への意識が高まり、食品や農作物の健康機能性に対する関心が強まっています。これまで、ヒトACE2は大量生産が難しく、応用技術開発上のネックとなっていましたが、今回開発した方法により、食品の未知なる機能の解明や、健康に有効な新規機能性食品の開発につながると期待されます。また、B38-CAPをマウスに投与すると、血圧降下や心不全の症状改善等の効果が見られたことから、人や動物に対する医薬品としての可能性も期待されます。さらに、酵素の反応メカニズムに着目して微生物酵素の検索を行うことにより、農業・食品産業分野でのより幅広い酵素利用や、‘ジェネリック’蛋白製剤といった医薬品開発への応用等が期待されます。

用語の解説

1) ヒトアンジオテンシン変換酵素2 (ヒトACE2)
ヒトの血圧を上昇させる作用をもつホルモンであるアンジオテンシンIIを分解し、血圧を下降させる役割を有する酵素。心不全の症状改善や肺の炎症抑制にも寄与する。
図1. ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ヒトACE2)の代替となる微生物酵素の同定

図1. ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ヒトACE2)の代替となる微生物酵素の同定