土壌保全技術の採用と農家間普及における社会構造的要因
背景・ねらい
西アフリカのブルキナファソでは、降雨の不安定化や過耕作が進み、土壌劣化が深刻な問題となっている。これらの課題に対処するため、農家はザイ(掘り穴による雨水の収集・貯留技術)(図1A)、石堤(列状に配置した石材で土壌流出を抑える技術)(図1B)、有機肥料(図1C)といった伝統的な土壌保全技術を実践している。しかし、その普及は限定的である。普及が広がらない要因の一つは、公的普及制度における農業普及員の慢性的不足である。その補完策として、農家が隣人に技術を伝える「農家間普及」が注目されているが、その成立条件や技術ごとの伝播経路に関する実証的知見が不足している。
以上を踏まえ、本研究では農家間普及の実態を包括的に把握し、「誰が、誰に、どのような関係性で、どの技術を伝えるのか」という社会的構造と、技術固有の要件が普及に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- ザイの採用特性として、耕地面積や村の地元出身者比率が採用を促進する一方、村落内で同じ宗教を信仰する人々の割合を示す宗教的同質性は抑制要因となる(表1A)。また、農家間の普及においては、地元出身の世帯主や最終学歴の高い農家が隣人に伝える傾向が確認される(表1D)。これは資源条件や地域的つながりが普及の成否を左右することを示すものである。
- 石堤の採用特性として、男性世帯主が採用しやすく(表1B)、宗教的同質性の高い村で農家間普及が活発である(表1E)。 労働負担の大きい技術であるため、労働力の確保や、共同作業を容易にする社会的結束が普及を支えていることが示唆される。
- 有機質肥料の採用特性として、村の地元出身者比率が採用を促すが(表1C)、普及行動には有意な偏りがみられない(表1F)。技術の性質上、特定の社会的条件に依存せず情報が流れている可能性を示唆している。
- 行動経済学のリスク選好ゲームで測定された世帯主のリスク回避度は、いずれの技術の採用・普及とも有意な関連を示さず、この結果は、技術採用が個人のリスク選好よりも、社会的制約や役割分担に強く影響されていることを示唆する(表1)。
- 本研究の成果は、人的・財政的制約の大きい地域において、公的普及制度を補完する現実的な技術普及設計の科学的根拠を提供する。
成果の活用面・留意点
- 本研究で明らかになった社会的・地域的条件を踏まえることで、地域の信頼ネットワークに基づく普及戦略を設計できる。具体的には、ザイでは高学歴層や地元出身者、石堤では宗教的結束の強いコミュニティが、技術普及のハブとして有効である。
- 労働集約的な技術における男性世帯主の採用傾向を考慮し、女性農家が普及過程から取り残されないよう、技術特性に応じた支援パッケージ(ザイ・石堤・有機質肥料)を地域特性と組み合わせて導入することで、普及員不足地域においても持続的な普及モデルの構築が可能である。本成果は、ブルキナファソ以外の開発途上地域にも応用可能である。
- 留意点として、降水量や土壌条件などの環境要因の影響は十分に検証されていない。今後は、環境要因を組み合わせることで、社会条件と自然条件を統合した普及設計への展開が期待される。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ畑作システム
- 研究期間
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2022~2024年度
- 研究担当者
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李 根雨 ( 社会科学領域 )
ORCID ID0000-0001-5623-6205科研費研究者番号: 80836643伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-5460-8570科研費研究者番号: 70582021村岡 里恵 ( 社会科学領域 )
ORCID ID0000-0002-6944-2996科研費研究者番号: 00760753 - ほか
- 他
- 発表論文等
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Lee et al. (2026) Land Degradation & Development 37(2), 704-19.https://doi.org/10.1002/ldr.70136
- 日本語PDF
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2025_B13_ja.pdf758.48 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。