マレーシアにおけるハイガイ養殖の生産阻害要因

要約

近年マレーシア半島西岸のハイガイ漁場で顕在化している、稚貝発生量の減少および養殖過程での大量死の要因を把握する。稚貝発生量減少は、過度の有機物負荷に伴う還元的環境が貝の性成熟不良を招いたことが原因であると考えられる。一方、大量死は、大量出水に伴う環境変化が貝の摂餌不良・栄養吸収阻害を引き起こしたことによる衰弱が主因であると判断される。

背景・ねらい

ハイガイAnadara garanosaは東南アジア諸国の各地沿岸で養殖される重要種である。ハイガイの生息に好適な泥干潟が広がるマレーシア半島西岸は、本種の地蒔き養殖の中心漁場であり、天然に大量発生する本種稚貝は養殖用種貝として周辺国にも輸出されている。近年、この西岸の漁場ではハイガイ稚貝の発生量の減少、養殖過程での大量死が顕在化している。このため、ハイガイ養殖の安定生産の実現には、その原因究明と対策が重要な課題である。本研究では、ハイガイ養殖漁場における生産阻害要因を明らかにし、今後の対策を考察する。

成果の内容・特徴

  1. ハイガイ養殖漁場の3定点で行った定期調査により、1つの定点で採集されるハイガイに性成熟不良が認められる(図1)。また、環境調査から同定点の底質は著しく還元化しており(図2)、周辺から供給される有機物負荷がハイガイの性成熟不良の一因になっているものと判断される。
  2. 2012年2月中旬に発生したハイガイの大量死事例(河口域周辺で死亡率30%以上)の解析から、ハイガイは産卵期にあり、消化管の状態から摂餌不良(図3)を来し、消化盲嚢上皮の状態から栄養吸収に障害が生じたものと推察される(図4)。また、気象解析から大量死発生時は30㎜/日以上の降水が週に4日間も集中しており、周辺河川からの淡水および懸濁物の流入に伴う環境変化が、産卵期で環境耐性が低下するハイガイを摂餌不良および栄養吸収障害に陥れ、衰弱死に導いた可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  1. ハイガイ養殖の安定化にはハイガイ稚貝の安定確保と養殖過程の死亡を抑えることが重要である。今後、ハイガイ養殖の漁業管理の一環として、漁場周辺に流入する河川流域の水質管理と漁場の底質管理を進め、ハイガイ養殖の安定化を図り、生産性向上に繋げる必要がある。
  2. ハイガイの養殖漁場周辺の河川流域管理および底質管理の実現には、マレーシア政府による行政主導の沿岸環境管理と、漁業者らが自主的に進める漁業管理が不可欠である。今後、これらの体制づくりをマレーシア水産局に提案し、実現を目指す。

具体的データ

  1. 図1 肉眼観察によるハイガイの生殖腺部位の肥大状況

    図1 肉眼観察によるハイガイの生殖腺部位の肥大状況
    スコアー、0:未発達、1:やや発達、2:顕著に発達、括弧内の数字は観察個体数、グラフ結果は、調査点 2と3(○と△)で生殖腺の顕著な発達が11月以降に見られるのに対し、調査点.1(●)では発達が見られない。平均値の誤差範囲は標準誤差を示す。

  2. 図2 亜臨界水抽出における温度(A)と時間(B)の影響(凡例は図3と同じ)

    図2 亜臨界水抽出における温度(A)と時間(B)の影響(凡例は図3と同じ)
    ハイガイの性成熟がみられない調査点1では底質の著しい還元化が見られた。グラフのa とbの間には有意差(P < 0.01)が認められる。調査はハイガイの生殖腺が発達する11月に実施した。平均値の誤差範囲は標準誤差を示す。

  3. 図3 大量死発生前後のハイガイ消化管内の餌の有無

    図3 大量死発生前後のハイガイ消化管内の餌の有無
    写真は、餌あり:餌で充満する消化管、餌なし:*印は餌を含まない消化管。 グラフは大量死発生後に餌を摂餌していない個体数の増加を示す。

  4. 図4 大量死発生前後のハイガイ消化盲嚢上皮の状態

    図4 大量死発生前後のハイガイ消化盲嚢上皮の状態
    写真は、正常:正常状態、一部:一部に盲嚢上皮の扁平化(矢印)、広範:広範な上皮の扁平化(矢印)。 
    グラフは大量死発生後に盲嚢上皮が扁平化した個体数の増加を示す。

Affiliation

国際農研 水産領域

分類

研究B

研究プロジェクト
プログラム名

農村活性化

予算区分

交付金 » 熱帯沿岸域養殖

研究期間

2014年度(2011~2015年度)

研究担当者

圦本 達也 ( 水産領域 )

Kassim Faizul Mohd ( マレーシア水産研究所 )

伏屋 玲子 ( 水産総合研究センター水産工学研究所 )

科研費研究者番号: 40373469

Man Alias Bin ( マレーシア水産研究所 )

ほか
発表論文等

Yurimoto et al. (2014) International Journal of Aquatic Biology, 2(3):115-123.

Yurimoto et al. (2014) International Aquatic Research

https://doi.org/10.1007/s40071-014-0077-3

日本語PDF

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English PDF

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ポスターPDF

2014_C09_poster.pdf332.08 KB

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