アカシアマンギウムにおける多湿心材の発見と形成要因

要約

代表的な熱帯早成樹種の1つであるアカシアマンギウムは東南アジアに広範囲に造林されている。しかし多くの個体に多湿心材(Wetwood)の存在が認められ、今後、木材利用上で問題が生ずることが予想される。熱帯早成樹種における多湿心材の存在は初めての報告例であるとともに、従来の温帯産樹種での多湿心材形成要因説のどれにも該当しないことから、別の形成要因があると考えられた。

背景・ねらい

   代表的な熱帯早成樹種の1つであるアカシアマンギウム(Acacia mangium)は、荒廃地への造林が可能であり、かつ材質が比較的良いことからインドネシア、マレーシア等の東南アジア中心に世界的に造林されてきた。しかし、当初は予想していなかった心材腐朽の被害や多湿心材の存在が顕在化し、地域によっては造林意欲の減退や木材利用上の問題が生じている。膨大な蓄積を有するアカシアマンギウム材の利用は木材資源の有効利用のみならず、今後の再造林の持続的推進にとっても不可欠である。ここでは、アカシアマンギウムの欠点の一つである多湿心材の発生要因を明らかにし、木材利用上の問題点の解決、およびアカシア造林の方法の改善に資することを目的とする。

成果の内容・特徴

マレーシア理科大と共同でセランゴール州ラワン、ペラ州ビドー、ペナン州バイランのアカシアマンギウム造林地において多湿心材の発生要因を研究し、以下の成果を得た。

  1. 多湿心材あるいは水喰い材と呼ばれる周辺より含水率が高い材部の存在が多くの個体で確認された(図1)。含水率の高いところは、通常心材中の随に近い部位であった。その部位は未成熟材と呼ばれ、比重が低く材質は劣る。これまでアカシアマンギウムでの多湿心材の報告例は無く、恐らく熱帯産早成造林樹種で初めての事例である。
  2. 温帯産樹種での多湿心材の一般的な特徴とされる無機物の集積(図2)、バクテリアの繁殖(図3)、および傷害との直接の関連性は認められなかった。すなわち、アカシアマンギウムの多湿心材の形成は無機イオンの集積による浸透圧の上昇や、バクテリアが形成したスライム(粘液)による水の吸収等の機構によるものではなく、主として立地環境によるものと考えられた。
  3. 心材中の軸方向柔細胞にはカルシウムの結晶が、放射柔細胞には着色したフェノール成分が多く存在することから、水が集積する経路は道管や木繊維であると考えられた。
  4. 多湿心材を持つ個体からの木材は、乾燥コストの上昇や、乾燥時の狂いが問題となりアカシアマンギウム利用上の障害となろう。多湿心材の発生をさける造林技術の開発が必要である。

成果の活用面・留意点

  1. アカシアマンギウムを製材品として利用する際には、木取りに配慮し、多湿心材部分を分ける必要があろう。多湿心材部は通常は未成熟材部で材質的に劣り多量の樹液の酸化による着色が著しいため、チップとしての利用が望ましい。
  2. 今後は多湿心材の出現の季節性の有無や、心材に多量に存在する水の起源及び集積の経路を心材形成との関連において明らかにする必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1 樹幹横断面の生材含水率と比重分布
  2. 図2 3地点から採取した多湿心材を有する樹幹横断面のカリウムの分布
  3.  

    図3 道管内腔の走査電子顕微鏡写真
Affiliation

国際農研 林業部

マレーシア理科大学

分類

研究

予算区分
経常
研究課題

熱帯産木材の現地保存法の解明

研究期間

平成7~9年度

研究担当者

山本 幸一 ( 林業部 )

Sulaiman Othman ( マレーシア理科大学 )

Hashim Rokiah ( マレーシア理科大学 )

SIMATUPANG Maruli H. ( マレーシア理科大学 )

ほか
発表論文等

Yamamoto, K. Sulaiman, O. and Hashim, R. (1997) Radial distributions of inorganic elements of Acacia mangium stem and its relation to wetwood. J. Institute, Wood Sci., (accepted).

Yamamoto, K., Sulaiman, O. & Hashim, R. (1997) Nondestructive detection of heart rot of heart rot of Acacia mangium trees in Malaysia. For. Prods. J., (accepted).

日本語PDF

1996_12_A3_ja.pdf1.31 MB

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