ドイモイ政策下のベトナム・メコンデルタにおける農業構造変動

国名
ベトナム
要約

ベトナム・メコンデルタでは、1988年以降、ドイモイ政策により市場経済が導入される中で、農家の階層分化が顕著に進行している。急速に規模拡大する農家、規模を縮小し土地無し層に転落する農家が存在する一方、2ha未満の中小規模層には、複合経営を取り入れて、経営の安定化を図る動きも認められる。地域単位での複合化を目指す必要がある。

背景・ねらい

ベトナム・メコンデルタは世界的な稲作地帯であるが、近年、農業生産の中に複合経営(ファーミングシステム)を取り入れて、農家の生活向上と安定化を図ろうとする動きが活発である。他方、ドイモイ政策による市場経済への移行のもとで、農業構造が急速に変化してきている。本研究では複合経営が農業や地域経済の中でどのような役割を果たしているかを明らかにしようとした。

成果の内容・特徴

  1. メコンデルタ中央部の純農村・沖積土壌・灌漑地帯で水稲3期作地帯でもあるカントー省トーノ県チュンギャン村において1996年10月に調査した。
  2. 1988年以降、農業に自由化政策が導入されるもとで、農家の各土地所有階層の分化が顕著に進行している。急速に規模を拡大する農家が存在する一方で、規模を縮小し、土地無し層へと転落する農家の一群が存在する(表2)。
  3. 大規模層農家は88年以降土地の集積を始め、現在も拡大意欲がある。これら農家には、イ)稲作への単作化・専作化傾向を強めており所得構成に占める稲作の比率が高い、ロ)家族員数が多く、豊富な家族労働力がある、ハ)トラクター等の農業用機械の導入が進んでいる。ニ)稲の生産費が低いという特徴が見られた(表1、表3)。
  4. 土地無し層は、最低の家計費水準であるうえに、農家経済余剰はマイナスである。その補填のため、生活資金の借り入れ、自然の樹木、野草、野生動物等の利用を余儀なくされている。この階層にはすでに他の地域へ流出した多数の農民がいたと推定される。
  5. 一方、2ha未満の中小規模層は88年以降も農地の売却・購入を行わず、年に1千万ドン(約10万円)程度の農家経済余剰を生み出し、経営が比較的安定している農家の一群が存在する。このような農家は稲作の他に畜産、養魚、野菜作を積極的に取り入れ、経営の多角化を進めている(表1)。
  6. 各階層とも比較的、安定した水稲収量を得ており、階層による収量差は認められなかった(表3)。
  7. 中小規模層の経営安定化に複合経営(ファーミングシステム)は有効と考えられるが、持続可能な地域農業の発展には専作化傾向にある大規模層も含めて、地域内での複合化を図る必要がある。

成果の活用面・留意点

  1. 単年度のデータに基づく分析結果であり、農業生産と農産物価格の年次変動が激しいので、複数年度にわたるデータを用いてより精緻に分析することが望ましい。
  2. メコンデルタはいくつかの農業地帯に分かれ、異なった条件にある農業地帯では農業の展開過程は異なる。同様の農家調査を他の農業地帯にある地点を対象に行い、分析結果を比較する必要がある。

具体的データ

  1. 表1 階層別農業所得の構成
    (単位:百万ドン、%)

    表1 階層別農業所得の構成
  2. 表2 各階層の平均経営面積の変遷
    (ha/戸)

    表2 各階層の平均経営面積の変遷
  3. 表3 階層別水稲生産費(ドン/Kg)および収量

    表3 階層別水稲生産費(ドン/Kg)および収量
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Affiliation

国際農研 生産利用部

分類

研究

予算区分
国際農業(メコンデルタ)
研究課題

ベトナムのファーミング・システムの経営・経済的評価

研究期間

平成8~9年度

研究担当者

山崎 亮一 ( 生産利用部 )

ほか
発表論文等

Development of Farming Systems in the Mekong Delta of Vietnam. Saigon Times, 1998.

日本語PDF

1997_05_A3_ja.pdf590.69 KB

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