ベトナム・メコンデルタの水稲栽培における問題点と改善方策

国名
ベトナム
要約

メコンデルタ水稲栽培ファーミングシステムの基幹であり、2期、3期作等の新技術導入により生産性は向上しつつあるが、雨季作はいまだに不安定である。葉色などによる生育診断と、窒素施用法水管理の改善により、倒伏が回避され、生育・収量の安定化が可能である。

背景・ねらい

   ベトナムのメコンデルタではファーミングシステムと呼ばれる農畜水複合経営が行われている。基幹となる水稲作では、灌排水施設の整備、短稈・多収品種と直播による2期、3期作の導入、肥料・農薬の施用等の技術革新の進展と、ドイモイ政策による市場経済のもとで急速に生産性が向上し、ヘクタール当たり年間10~15トンの籾収量が得られるようになった。熱帯のデルタ地帯では今後も水稲が重要な位置を占めるので、現行の稲栽培技術を点検し、問題点と栽培法改善の方向を検討した。

成果の内容・特徴

  1. 乾季作の水稲は多収で安定している。しかし、雨季作は収量が低くかつ不安定であり、(図1、図3)、主な原因は日射量不足に伴う軟弱な生育と低地耐力にともなう倒伏せるにあると推定された。
  2. 葉色(SPAD値)と幼穂形成期の葉身の窒素濃度との間には、乾季、雨季ともに高い正の相関が認められた(図1左)。葉色が濃い区は窒素過剰で、倒伏による収量低下(図1右)がみられた。とくに、雨季作では倒伏しやすいので葉色に基づいた生育制御が有効である。
  3. 窒素の施用時期と量について検討した(表1、図2)。分げつ始期~盛期に追肥した区では初期の生育は良いが過繁茂となって、籾数の確保ができない。また、多肥区では出穂後の早い時期から倒伏が発生し、登熟度(登熟歩合×精籾千粒重)が低かった。一方、穂孕期1回追肥区は籾数が多く、収量も高かった。この結果は後期重点型の追肥により窒素の利用効率が向上することを示している。
  4. ソンハウステートファーム(地域農業共同組織)で稲作と養魚の複合経営を行っている5戸の農家を調査した(表2、図3)。乾季作稲の収量(籾)は6~6.5トン、雨季作では総籾数が少なく登熟度も低いため4トン程度であった。養魚のため水田をいつも深水に保っているA農家は、早くから倒伏し稲収量が低かったが、E農家は落水などの水管理を行っていて多収であった。水管理はとくに雨季作稲の栽培法改善に有効である。

成果の活用面・留意点

水稲は品種や土壌条件で異なる施肥反応を示すことがあるので、同様な試験を基に現地に適した技術を開発する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 幼穂形成期の葉色(SPAD値)と葉身窒素濃度、収量との関係
  2. 表1 処理区の窒素施用時期と施用量(Nkg/ha)

    表1 処理区の窒素施用時期と施用量(Nkg/ha)
  3.  

    図2 窒素施肥法と収量構成要素(1996/97乾季)
    図2 窒素施肥法と収量構成要素(1996/97乾季)
    注)登熟度=登熟歩合×千粒重(精籾)
    図中の数字は表1の処理区番号を示す
  4. 表2 ソンハウステートファーム水田の深水(cm)

    表2 ソンハウステートファーム水田の深水(cm)
  5. 図3 ソンハウステートファーム5農家の収量構成要素
    図3 ソンハウステートファーム5農家の収量構成要素
    注)図中A-Eの文字は表2の農家を示す
Affiliation

国際農研 生産利用部

分類

研究

予算区分
国際農業(メコンデルタ)
研究課題

メコンデルタファーミングシステムにおける水稲栽培法の改善

研究期間

平成 7~9 年度

研究担当者

忠男 ( 生産利用部 )

TAN Pham Sy ( クーロンデルタ稲研究所 )

HUAN Tran Ngoc ( クーロンデルタ稲研究所 )

KHUONG T. Quang ( クーロンデルタ稲研究所 )

DINH Hoang Dinh ( クーロンデルタ稲研究所 )

ほか
発表論文等

Rice Production and Research in the Mekong Delta. International Workshop on The Development of Farming Systems in the Mekong Delta, JIRCAS, 1997.

Rice Cropping in the Mehong Delta. Saigon Times, 1998 (in press).

日本語PDF

1997_04_A3_ja.pdf831.37 KB

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