ベトナム・メコンデルタにおける豚回虫の感染状況と駆虫の経済効果
ベトナム・メコンデルタで飼養される豚について豚回虫(Ascaris suum)の感染状況を明らかにするとともに、駆虫の経済効果について検討した。駆回虫感染豚を駆虫群と無駆虫群に分け、増体重を比較したところ、駆虫群では体重80kgに達する期間が約2週間短縮された。その経済効果は1頭当たり約200円と見積もられた。
背景・ねらい
メコンデルタを中心に営まれている農畜水複合生産体系は環境と調和した物質循環型農法として期待されているが、豚の生産性はきわめて低い状況にある。主な原因は低品位な飼料給与と推定されるが、疾病も麻生産性低下の重要な要因となっている。発展途上国では、第一の損耗要因として重視しなければならない疾病は寄生虫病、なかでも蠕虫性疾患である。そこで、農家に対する啓蒙資料の作成を目的に、豚回虫(Ascaris suum)の感染状況を明らかにするとともに駆虫の経済効果について検討した。
成果の内容・特徴
- カントー、ソクチャン、ビンロンおよびチャビン州の豚約90等について糞便検査を行ったところ、約半数の豚から豚回虫卵が検出された。感染率には地域差が認められたが、特にカントー大学周辺の農家では100%と高い値を示した。
- 豚回虫に感染したカントー大学農場の豚3頭に駆虫薬を2回投与、他の3頭を無処置対照群として増体重を比較した。その結果、投薬2日後より効果が認められ、3日後には投薬群全頭で糞便中の回虫卵は陰性となった(図1)。また、肥育完了時の体重を80kgとすると、駆虫により肥育期間を約2週間短縮することができた(図2)。
- アンギャン省の農林水産物輸入会杜の資料から換算すると、肥育期間2週間の短縮によって生じる経済便益は1頭当たり約25,000ベトナムドンであり、平成11年1月現在の為替レートによれば約250円となる。一方、駆虫には2回で5,000ベトナムドンを必要とすることから、駆虫の経済効果は1頭当たり約20,O00ベトナムドン (約200円)と見積もられた。
成果の活用面・留意点
- 寄生虫感染による被害の重要性を農家へ啓蒙する資料として活用できる。
- 駆虫によって肥育期間が短縮されたことから、豚生産の回転効率が高くなる。また、ローテーションの間に空合期間を設けることにより、他の疾病の防除にも役立つことが期待される。
- 今回の試験はカントー大学の比較的良好な飼育条件下で実施され、農家の劣悪な飼育環境下ではさらに駆虫効果が高くなる可能性がある。豚回虫の駆虫を普及するためには、実際の農家の豚を用いた実証試験を実施する必要がある。
具体的データ
- Affiliation
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家畜衛生試験場
- 分類
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行政
- 予算区分
- 国際農業[メコンデルタ]
- 研究課題
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メコンデルタファーミングシステムにおける畜産技術の改善
- 研究期間
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平成9年度(平成7~9年)
- 研究担当者
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吉原 忍 ( 家畜衛生試験場 )
- ほか
- 発表論文等
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Helminths and helminthiosis of pigs in the Mekong Delta,Vietnam with specia1 reference to ascario-sis and Fascio1opsis buski infecton. JARQ, 33: 193-199 (1999).
- 日本語PDF
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1998_12_A3_ja.pdf578.85 KB