メコンデルタにおける農牧水復合技術体系の評価と改善

国名
ベトナム
要約

ドイモイ政策の進展、定期的・大規模な洪水、発達した水路系統の条件下でメコンデルタ農畜水複合技術が発達している。2期作稲作ブタ育成、水産養殖を組み合わせ物質と水の循環を技術の主要構造とし、平均1ha小規模家族経営であり、階層分化が進んでいる。

背景・ねらい

   発展途上国の食糧戦略に重要なことは、これら途上国が増加する人口を自ら養い、健康な食生活達成を目指すことである。本プロジェクトは、新経済政策の下で急速な発展を遂げつつあるベトナムのメコンデルタで行われている複合経営体系について、1.技術的、経営的構造を解明し、2.体系を高度・普遍化するために欠如している技術を開発・補填し、3.この技術を適用するための条件を明らかにすることをを目的としている。

成果の内容・特徴

  1. メコンデルタは乾季・雨季が明確で、雨季の終わりに大規模な洪水に見舞われる。洪水は塩類や硫酸などを除き、天然の魚をもたらす。土壌は地形に応じて沖積土、酸性硫酸塩土壌、塩類土壌等に区分される。水路網の発達は著しいが道路建設は遅れている。長い戦争と混乱の後ドイモイ政策で市場経済が進み、イネを始め生産性が急速に向上した。
  2. ファーミングシステムと呼ばれる農畜水複合技術体系は水稲作を基礎とし、糠・屑米をブタの飼養に使い、糞尿を園芸、水産に用い、さらに排水の養分を稲に吸収させるという水と物質の循環を基幹技術としている。
  3. 個別の技術改善として:
  1. 稲生産は後期重点追肥(図1)や水管理で倒伏を防ぎ、イネの収量安定化ができる。
  2. イネ病害として紋枯病、白葉枯病、いもち病、赤条班病などが重要で、白葉枯病・いもち病については分布する病菌株への抵抗性遺伝子が明らかになった(いもち病の例:表1)。
  3. 寄生虫防除により養豚効率を改善できる(表2)。
  4. オニテナガエビの生長・脱皮・成熟に関わる内分泌の機構解明がすすみ、エビ種苗生産の改善が可能となった。
  1. メコンデルタ農業経営は平均1haの家族経営で、ベトナムでは相対的に大規模な経営だが入植後の歴史が浅く、紅河デルタ地域に比べ共同体意識が希薄である。組織化の経験が乏しく水路等インフラの管理、信用保証、流通の共同化が進まない。ドイモイ政策の下で階層分化がすすみつつあり、大規模層と零細・土地なし層が増えている(表3)が、複合経営を実践している経営は比較的、安定している。
  2. 今後のファーミングシステム発展のため、雨季作イネの安定多収化、高品質米の生産、IPMの普及、適正規模養豚の飼料、衛生の改善、糞尿処理の高度化、水産種苗の安定供給、病害防除等の技術開発を進める。同時に購入販売の協同化、地域水管理の組織化、信用保証構造の構築など農民組織の高度化が必要である。

成果の活用面・留意点

   メコンデルタ地域の農業開発計画に参考となる。
   条件の類似な熱帯デルタ地帯の農業開発に有益な情報となる。ただし、国家事情や社会経済条件の相違などにより条件が異なるので一律な適用はできない。

具体的データ

  1.  

    図1 窒素施肥法と収量構成要素 (1996/9 乾季)
  2.  

    表1 メコンデルタに分布するいもち病菌の病原性
  3.  

    表2 駆虫剤処理後の豚体重の推移 (kg)
  4.  

    表3 各階層の平均経営面積の変遷 (ha/戸)
  5.  

    図2 イネ、エビ、ココヤシなどの複合経営
Affiliation

国際農研 海外情報部

分類

研究

予算区分
国際農業
研究課題

メコンデルタにおける農畜水複合技術体系の評価と改善

研究期間

平成6~10年

研究担当者

松井 重雄 ( 海外情報部 )

ほか
発表論文等

英文単行本“Development of farming systems in the Mekong Delta of Vietnam.”(Vo-TongXuan and Shigeo Matsui eds.), H.M.C.Publishing House, Ho Chi Minh City, Vietnam.その他

日本語PDF

1998_01_A3_ja.pdf797.59 KB

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