主要普及成果

イネ科ウロクロア属牧草で初のアジアモンスーン向け品種「イサーン」の育成と品種登録

関連プロジェクト
熱帯作物資源
国名
ラオス
要約

「イサーン」は、乾物収量の平均値が1年当たり18.8 t ha-1と既存品種よりも約12%多収であり、強い耐乾性や高い粗タンパク質含量などの優れた飼料特性を有するウロクロア属で初のアジアモンスーン向け品種であり、日本では2021年8月に、タイでは2024年7月に品種登録された。無性生殖による種子生産のため、種子から均一な草地造成が容易で、放牧利用に適し、タイの農家の経営安定化や畜産業発展に寄与する。日本でも地球温暖化の適応策として、南西諸島や九州から関東地方での利用が期待される。

背景・ねらい

 ウロクロア属(旧称、ブラキアリア属)牧草は、世界の熱帯・亜熱帯で広く栽培されているイネ科の暖地型牧草で、ブラジルだけで4千万ha以上栽培され、高収量で強い耐乾性や放牧適性、高い粗タンパク質含量といった優れた飼料特性を有する。しかし、ウロクロア属は交配育種の歴史が浅いため、世界で登録されている品種は約20種しかなく、そのほとんどが南米およびオーストラリアで育成されたもので、アジアモンスーン地域向けに育成された品種はこれまでない。
 また、アジアモンスーン地域では、牛肉や生乳の生産量の増加に伴い家畜頭数も増加しているが、多くの農家は栄養価の低い稲わら中心の飼料給餌体系を採用しており、栄養不足による家畜の生産性や繁殖率の低下が課題になっている。これらの問題を解決するため、アジアモンスーン地域の気候に適した高収量・高品質で低コスト栽培が可能な暖地型牧草品種を育種開発する。

成果の内容・特徴

  1. 「イサーン」はウロクロア属の牧草として日本とタイで初となる品種である(図1, 2)。育種の経緯と各組織の役割分担を図3に示す。
  2. 「イサーン」は、乾物収量の平均値が1年当たり18.8 t ha-1と既存品種の平均値16.8 t ha-1よりも約12%多収である(表1)。
  3. 「イサーン」の乾物率は、既存品種よりも約2ポイント低い(表1)。
  4. 「イサーン」は粗タンパク質含量に優れており、ナコンラチャシマ家畜栄養研究開発センターの1年目の1番草で17.2%と既存品種「ケネディ」と比較して約3%高い。TDN(可消化養分総量)含量*は、既存品種と同等である(表1)。
  5. アポミクシス**のため(表1、注)、種子から均一性の高い草地造成が容易である。

*TDN:牧草に含まれるエネルギーを評価する指標。
**アポミクシス:受精を伴わない無性生殖による種子生産。種子から育つ植物体は種子親と遺伝的に同一のクローンになる。

成果の活用面・留意点

  1. 「イサーン」は高収量・高品質、さらに管理が容易という特徴があり、アジアモンスーン地域の牧草のニーズに応えられる可能性が高いと考えられる。
  2. 日本の南西諸島の無霜地帯では、「イサーン」を放牧あるいは採草用として多年利用することが可能となる。粗タンパク質含量に優れ、粗放的放牧利用に適していることから、価格が高騰している濃厚飼料の購入を減らし、農家の経営安定化につながることが期待される。
  3. 近年の夏季の高温により寒地型牧草の夏枯れが問題となっており、地球温暖化の適応策として、南西諸島以外の地域でも暖地型牧草の利用拡大が求められている。「イサーン」は高温や乾燥に強く、種子で繁殖するため、九州から関東地方にかけて、牧草地における単年利用も期待される。
  4. 乾物率が低いため、サイレージ***調製には水分含量を60~70%程度に調整する予乾が必要となる。粗タンパク質含量の変動は大きいため、適切な刈り取り時期を選ぶ必要がある。

***サイレージ:牧草を密封し乳酸発酵させた飼料。

具体的データ

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

情報

資源・環境管理

農村活性化

予算区分

交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源

交付金 » BNI活用

交付金 » インドシナ農山村

研究課題

運営費交付金「ブラキアリア育種」(2006~10年度)

研究期間

2006~2024年度

研究担当者

下田 勝久 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 60462537

安藤 象太郎 ( 企画連携部 )

科研費研究者番号: 00370578

蝦名 真澄 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 80355122
見える化ID: 000940

幸喜 香織 ( 沖縄県畜産研究センター )

明石 ( 宮崎大学 )

科研費研究者番号: 20253809

末永 一博 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001799

安藤 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 40502943

金森 紀仁 ( 情報広報室 )

松本 成夫 ( 情報広報室 )

Nakamanee Ganda ( タイ国畜産振興局 )

Rimkeeree Kamol ( タイ国畜産振興局 )

Srisompom Wattanawan ( タイ国畜産振興局 )

Patipan Chalermpon ( タイ国畜産振興局 )

Mangpung Yaowalak ( タイ国畜産振興局 )

ほか
発表論文等

下田ら 「イサーン」品種登録第28580号 (2021年8月5日)

Nakamanee et al. 「Isan」 Variety Registration No. 0924/2024 (2024/7/26 in Thailand)

蝦名ら (2021) 関東畜産学会報 71: 2−10

日本語PDF

2024_C03_ja.pdf1015.77 KB

English PDF

2024_C03_en.pdf610.47 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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