キャッサバモザイク病抵抗性品種の育成を効率化するDNAマーカー

関連プロジェクト
熱帯作物資源
国名
ベトナム
要約

キャッサバは熱帯・亜熱帯地域で栽培されるイモ類作物である。近年、キャッサバモザイク病 (Cassava Mosaic Disease: CMD) の被害が深刻化している。今回開発したDNAマーカー法はCMD抵抗性に関与する遺伝子の識別を可能にし、比較的安価な実験機材を用いた方法、あるいは高速かつ多検体判別に向く方法の2種類の手法を選択できることから、抵抗性品種の開発にかかるコストや労力を削減する。本技術は、CMDの深刻な被害がみられる地域において、CMD抵抗性品種の開発の加速化に貢献し得る。

背景・ねらい

 熱帯および亜熱帯地域で栽培されるキャッサバ (Manihot esculenta) は、世界で最も生産されているイモ類作物であり、約8億人の主食作物でもあることから、その安定的な生産は食料安全保障の観点から非常に重要である。キャッサバのイモから作られる澱粉は、食品・工業用にも利用されており、日本も年間12万t相当を主に東南アジアから輸入している (財務統計2023)。
 キャッサバ生産性を著しく低下および不安定にしているウイルス病のキャッサバモザイク病 (CMD) は長年にわたりアフリカやインドで問題となっている。最近では東南アジアでスリランカキャッサバモザイクウイルスによる被害が深刻になっている。タイ農業協同組合省農業経済局によると、タイでは2023年に前年度比180万tの減収が発生し、CMDがその主な原因と考えられている。CMDが一度でも発生してしまうと防除が困難であり、CMD抵抗性を有するキャッサバ品種を利用することが唯一有効な対策であると考えられているが、CMD抵抗性品種を選抜する際に数年に及ぶ抵抗性評価に関わる大規模な圃場試験が必要になり、多大なコストや労力が生じるのが現状である。育種の高速・効率化をねらうため、CMD抵抗性に関わる遺伝子を識別するDNAマーカーの開発が求められている。

成果の内容・特徴

  1. ベトナム農業遺伝学研究所が保持するCMD抵抗性を有するキャッサバ品種・系統は、CMD抵抗性に関わるとされるDNAポリメラーゼδサブユニット1 (POLD1) 遺伝子に変異をもつ(図1, 表1)。コロンビアの国際熱帯農業センター (CIAT)およびナイジェリアの国際熱帯農業研究所 (IITA)由来の系統・品種は、それぞれ680番目のアミノ酸であるグリシンがバリンに、685番目のロイシンがフェニルアラニンに置換する変異を有する(以下、G680V型およびL685F型とする)(表1)。
  2. 2. 開発したDNAマーカーはPOLD1の遺伝子型を識別できる。比較的安価な実験機材で実施できるdCAPS法と(図2A, 2B)、高速かつ多検体判別に向くKASPの2種類の手法を選択できる(図2C)。
  3. 3. 開発したDNAマーカーの有効性を検証するため、POLD1遺伝子が通常型およびG680V変異型のキャッサバ系統をCMD感染圃場で栽培して、病徴の程度を比較したところ、通常型と変異型とで有意に病徴に差があり、変異型のほとんどは無病徴もしくは葉の形態に影響がでない。

成果の活用面・留意点

  1. 本法において、CMD抵抗性をもつキャッサバ個体を効率的に選抜することが可能となる。熱帯地域各国・地域の優良キャッサバ品種にCMD抵抗性をもつキャッサバ系統を交配し、その後代から選抜することで、栽培環境や用途に適したキャッサバの品種開発につながる。
  2. 本報をもとにすることで、東南アジアで発生しているスリランカキャッサバモザイクウイルスに対してのみだけでなく、アフリカなどで主に発生しているキャッサバモザイクウイルス系統に対しての抵抗性品種開発にも適用可能であると期待される。Lim, YW. et. al Nat Commun 13, 3933 (2022) を参照。
  3. 本報は、DNAマーカー選抜の効果を病徴の程度で評価したのみで、今後は収量や環境ストレス応答など、より長期的な効果を研究する必要がある。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

情報

予算区分

科研費 » 国際共同研究強化(B)

科研費
研究期間

2022~2024年度

研究担当者

徳永 浩樹 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 30768479

Pham Thi Nhan ( フンロック農業研究センター )

Truong Minh Hoa ( フンロック農業研究センター )

Nguyen Huyen Thi Trang ( フンロック農業研究センター )

Nguyen Ba Tung ( フンロック農業研究センター )

Pham Thi Huong ( ベトナム農業遺伝学研究所 )

Nguyen Hai Anh ( ベトナム農業遺伝学研究所 )

Le Mai Thi Huong ( ベトナム農業遺伝学研究所 )

Le Huy Ham ( ベトナム農業遺伝学研究所 )

Le Cu Thi Thuy ( 国際熱帯農業センター )

Zhang Xiaofei ( 国際熱帯農業センター )

原明 ( 理化学研究所 )

科研費研究者番号: 80281624

ほか
発表論文等

Tokunaga H. et al. Breeding Science. 2024年12月受理

日本語PDF

2024_C06_ja.pdf3 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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