分子マーカーを利用した小麦赤さび病抵抗性遺伝子Lr34及びLr46の効率的な選抜法

要約

小麦の倍加半数体系統群において、育種に広く利用されている赤さび病抵抗性遺伝子Lr34及びLr46に連鎖するマイクロサテライト(SSR)マーカーを組み合わせることにより、両遺伝子を識別して赤さび病に対する抵抗性の効果を明らかにでき、赤さび病抵抗性系統を効率的に選抜できる。

背景・ねらい

   小麦の赤さび病は世界的に重要な病害であり、開発途上地域における小麦の持続的生産にとって耐病性品種の育成は不可欠である。広く利用されている抵抗性遺伝子Lr34Lr46 等は病原菌のレースに対する特異性がないために各遺伝子の同定が容易ではなく、さらに環境によって抵抗性評価が左右され易いため抵抗性育種に困難を伴う。そこで個々の抵抗性遺伝子に連鎖する分子マーカーを見出し選抜の指標とすることで、抵抗性遺伝子型の同定と遺伝子集積の効率化を図る。

成果の内容・特徴

  1. 国際トウモロコシ・コムギ改良センターにおける平成12年及び13年の赤さび病検定データをComposite Interval Mapping 法で解析すると、1B 染色体長腕端部及び7D 染色体短腕上にオリゴカーム及びフクホコムギ由来で寄与率がそれぞれ約26%及び40%の2 つのQTL が検出される。染色体上の位置から、これらは既報の圃場抵抗性型(slow rusting)遺伝子のLr46Lr34 と推察される (図1)。
  2. 2 つのQTL に最も近いSSR マーカーの遺伝子型に基づく罹病性程度の差異は、Lr34Xgwm295 では40.1%でLr46Xwmc44 では25.5%である。双方を組み合わせた場合、罹病性程度の差は61.6%であり、マーカーを利用して抵抗性を大きく向上することができる(表1)。
  3. これらのマーカーを用いて抵抗性系統を選抜した場合、全集団平均の31.2%より約20%抵抗性の高い系統(平均11.3%)を選抜できる。表現型では判別できないLr46 Lr34 の双方を持つ系統を選抜することも可能である(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. 小麦の赤さび病抵抗性育種現場で、Lr34 及びLr46 遺伝子を集積した抵抗性系統を効率的に選抜できる。
  2. マーカーを用いてLr34 及びLr46 遺伝子を識別できるため、個々の系統の持つ赤さび病抵抗性遺伝子が同定できる。
  3. Xgwm295 は多型の頻度が高いため多くの両親組み合わせに適応可能であるが、Xwmc44 はその適応範囲についてさらに検討を要する。
  4. 今回解析に用いたデータの調査時点では罹病性程度に関してLr34 の存在下でLr46 の効果は見られなかった。しかし、成熟後期や異なる環境下では複数の抵抗性遺伝子を有する方が高度な抵抗性が得られる。

具体的データ

  1.  

    図1
  2.  

    表1
  3.  

    図2
Affiliation

国際農研 生物資源部

分類

研究

予算区分
経常 法人プロ〔育種法〕
研究課題

DNA マーカーと半数体育種法を利用した効率的な耐病性選抜法の確立と高度耐病性小麦の育成

研究期間

2001 年度(1997 ~ 2001 年度)

研究担当者

末永 一博 ( 生物資源部 )

智広 ( 生物資源部 )

ほか
発表論文等

Suenaga, K., Singh, R.A., Huerta-Espino, J., William, M.: Association of SSR markers with Lr34 and other quantitative trait loci for leaf rust and stripe rust resistance in bread wheat. (投稿準備中)

日本語PDF

2001_04_A3_ja.pdf789.1 KB

English PDF

2001_04_A4_en.pdf69.11 KB

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