キャッサバ加工部門への企業の新規参入は農家経営を改善する
インドネシア最大のキャッサバ生産地であるランプン州では少数の加工業者が市場を寡占していたが、近年のバイオ燃料ブームによってキャッサバの用途が拡大し、加工業への新規参入が進んでいる。新規参入企業が提供する技術普及サービスや農家により有利な条件の契約栽培の導入は、農家の経営を改善できる。
背景・ねらい
農家と農産物加工企業との間に良好な関係を築くことは、生産性や品質の向上、安定供給を実現するために有益である。インドネシア最大のキャッサバ生産地であるランプン州では、最低価格の保証、生産資材の供給等の便益を農家に与えるキャッサバ加工企業との契約が広く行われているが、同地域では少数の加工業者が市場を寡占し、農家が収益を改善するのが困難な状況にあった。一方、近年のバイオ燃料ブームなどによる需要増大は、キャッサバ加工業への新規参入を促進し、こうした新規参入企業による農家との新たな関係形成が、農家の経営環境に変化を起こす可能性を持つ。このため、同州のキャッサバ生産農家80戸(総経営耕地面積はランプン州キャッサバ栽培面積の約0.02%に相当)を対象として、企業との関係、生産費、収益等を調査し、農家-企業間の関係が経営に与える影響を把握した。
成果の内容・特徴
- 調査対象農家を加工企業との関係により、「企業と契約を持たない農家(グループ1)」、「地域の加工企業と契約栽培を実施している農家(グループ2)」、「企業の技術普及プロジェクトに参加している農家(グループ3)」の3グループに分類した(表1)。調査対象農家は、耕地規模に関して調査地域の分布と同様な分布になるように選んだ。
- グループ3が参加しているプロジェクトは、ランプン州には生産基盤を持たない日系食品企業が、CSR(Cooperate Social Responsibility)の一環として実施しているもので、企業が提供する資金を原資として、農家に肥料購入のための資金を無利子(若干の手数料は徴収される)で融資するものである。さらに、参加農家は、トラクターを用いた安価な賃耕サービスや普及員による助言を受けることができる。
- 各グループのキャッサバ生産費及び収益を算出したところ、単位面積当たりの収益は、グループ3が最大となった(表2)。このことは、グループ3の生産物価格が最も高いことに起因している。キャッサバのデンプン含有量や収量は栽培期間の長さによって影響を受けるが、グループ3のキャッサバ栽培期間が、企業と契約を持たない農家に比べて長く、品質の高いキャッサバを収穫できたこと、販売先の制限がなく、最も有利な価格を提示する業者を販売先に選出できたことが、高価格を享受できた背景と考えられる。
- インドネシア政府は、国を挙げてバイオ燃料を推進しており、キャッサバを原料とするアルコール生産に取り組む企業が増加している。こうした新規参入企業には、農家にとって魅力的な条件を提示するものが多い。例えば、ランプン州で新たにアルコール工場を建設中の企業は、在来企業が実施している保証価格の提示、資金の貸付に加え、高収量接ぎ木苗の普及、資金貸付対象の拡大(肥料費に加え、種苗費、賃耕費も対象)、高品質キャッサバに対する高い価格による買い上げ定期的な農家訪問などを契約条件として提示し、すでに1,000戸の農家と契約を締結している。
成果の活用面・留意点
- 既存の契約栽培関係も、キャッサバの価格安定に寄与してきた側面を有する。既存業者の契約慣行を批判するのではなく、関係者による対話を通じ農家-企業双方にメリットにある関係形成を促す必要がある。
- インドネシア一地方の事例であり、原油その他の燃料価格や他の農産物価格の影響を受ける。また、農外収入など契約以外の要因が農家の行動に影響を及ぼしている可能性がある。
具体的データ
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表1 各グループの経営の特徴
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表2 キャッサバ生産農家の生産費、収益、栽培期間
- Affiliation
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国際開発領域
- 分類
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行政
- 予算区分
- 交付金〔アジア経済統合〕 受託〔文科省・熱帯プランテーション〕
- 研究課題
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東アジアにおける経済統合の進展が農業に与える影響の分析と農村の貧困解消を実現するための政策提言
バイオマス利活用システムの設計・評価手法
- 研究期間
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2007年度(2006~2010年度)
- 研究担当者
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杉野 智英 ( 国際開発領域 )
Mayrowani Henny ( インドネシア農業社会経済政策研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Sugino, T. and Mayrowani, H. (2008): The relationship between the cassava farmers-processor partnership and farmers’ productivity: a case study in Lampung Province, Indonesia. 平成20年3月29~30日、熱帯農業学会 第103回講演会
- 日本語PDF
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2007_seikajouhou_A4_ja_Part1.pdf437.89 KB