キャッサバパルプは肉牛用飼料に適し、成分の季節・工場間変動も小さい

国名
タイ
要約

タイ東北部のキャッサバデンプン抽出工場から排出されるキャッサバパルプの化学成分の工場や季節による変動は比較的小さく、これを飼料中50%(乾物ベース)まで混合した飼料を肉用牛に給与した場合、良好な増体成績を得られる。

背景・ねらい

タイで生産されるキャッサバは主にデンプン(タピオカ)の原料として利用されており、国内生産量の半分以上は東北部で生産されている。デンプン抽出残渣であるキャッサバパルプは繊維およびデンプンを多く含むため、家畜生産現場で求められている高栄養で比較的安価な飼料原料となりうるが、排出される季節や工場間の成分変動は明らかではない。そこで、牛用飼料としての利用促進のための情報提供に資することを目的とし、タイ東北部で排出されるキャッサバパルプ化学成分の工場間差および季節間差を明らかにする。またエネルギー価を求めるとともに、キャッサバパルプ混合飼料を用いた肉牛の増体成績を示す。

成果の内容・特徴

  1. タイ東北部に位置する4つのキャッサバデンプン抽出工場から、雨期(5月中旬~10月中旬)、冬期(10月中旬~2月中旬)、および夏期(2月中旬~5月中旬)の各季節に採取したキャッサバパルプ化学成分平均値を表1に示す。リンおよびカリウム含量は工場間差が認められるが、飼料設計に影響するほどの変動はない。また、排出季節による一定の成分変動は認められない。
  2. キャッサバパルプの粗タンパク質含量はキャッサバチップに近い(表1)。タイ在来種牛4頭に、基礎飼料あるいは基礎飼料にキャッサバパルプを混合した飼料を維持量給与して求めたキャッサバパルプのエネルギー価は、乾燥ビール粕に近い。
  3. キャッサバパルプを乾物ベースで10、30あるいは50%含み、粗タンパク質含量が10%程度となるように、稲ワラ等タイ東北部で利用可能な農業副産物を混合した発酵混合飼料を調製する(それぞれ、低、中あるいは高飼料とする;表2)。それぞれ6頭(計18頭)のゼブー系肉用牛(タイ在来種雄牛、試験開始時平均月齢15ヵ月)に5ヵ月間自由摂取させた場合、キャッサバパルプ混合比率が高くなるほど混合飼料のエネルギー価は高くなり、肉牛の日増体量は高くなる(図)。

成果の活用面・留意点

  1. 本成果はキャッサバパルプを牛用飼料として高度に活用する際の基礎資料となり、廃棄物処理の促進にも資する。
  2. キャッサバパルプは変敗しやすいため嫌気環境下で保存する必要がある。
  3. キャッサバパルプの飼料利用は、肉牛の日増体量を向上させ、飼育期間を短くすることができるため、生産物当たり消化管発酵由来メタン排出量の抑制に資する。
  4. 飼料設計の際には、粗飼料由来繊維含量等の飼料の物理性および養分要求量に配慮する必要がある。

具体的データ

  1. 表1 キャッサバパルプの化学成分およびエネルギー価
    table1

    DM:乾物、†:工場間に有意差あり(P<0.05)、‡:工場と季節間交互作用に有意差あり(P<0.05)
    §:キャッサバチップと乾燥ビール粕の値はインドシナ半島における肉牛飼養標準(2010)による

     

  2. 表2 キャッサバパルプ混合比率の異なる発酵混合飼料の飼料構成および化学成分

     
    飼料中のキャッサバパルプ混合比率
     
    飼料構成(%DM)
     
     
     
     キャッサバパルプ
    10.0
    30.0
    50.0
     稲ワラ
    50.0
    30.0
    10.0
     パーム核粕
    23.5
    23.5
    23.5
     大豆粕
    5.0
    5.0
    5.0
     米ヌカ
    10.0
    10.0
    10.0
     尿素
    0.5
    0.5
    0.5
     ミネラル・ビタミン類
    1.0
    1.0
    1.0
    化学成分
     
     
     
     粗タンパク質(%DM)
    9.9
    9.7
    9.7
     粗脂肪(%DM)
    5.9
    5.9
    5.9
     中性デタージェント繊維(%DM)
    63.2
    53.6
    45.2
     非繊維性炭水化物(%DM)
    10.5
    22.9
    33.7
    代謝エネルギー(MJ/kgDM)
    9.6
    11.4
    12.4

    DM:乾物

     

  3. 図1 キャッサバパルプ混合比率の異なる発酵混合飼料を摂取した肉牛の試験開始時体重(□)、終了時体重(■)および日増体量(●)

    図1 キャッサバパルプ混合比率の異なる発酵混合飼料を摂取した肉牛の試験開始時体重(□)、終了時体重(■)および日増体量(●)
    混合比率増加にともない日増体量は直線的に増加(P<0.05)

     

Affiliation

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

資源・環境管理

予算区分

交付金 » 気候変動対応

科研費 » 基盤研究B » 海外学術調査

研究期間

2018年度(2015~2018年度)

研究担当者

鈴木 知之 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 70391175

Keaokliang Ornvimol ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

Angthong Wanna ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

Narmseelee Ramphrai ( タイ王国反すう家畜飼養標準研究開発センター )

川島 知之 ( 宮崎大学 )

科研費研究者番号: 10355068

Kongphitee Kanokwan ( コンケン大学 )

Gunha Thidarat ( コンケン大学 )

Sommart Kritapon ( コンケン大学 )

Phonbumrung Thamrongsak ( タイ王国畜産振興局家畜栄養部 )

ほか
発表論文等

Keaokliang O et al. (2018) Animal Science Journal, 89:1120–1128.

https://doi.org/10.1111/asj.13039

Kongphitee K et al. (2018) Asian-Australas. J. Anim. Sci., 31:1431–1441.

https://doi.org/10.5713/ajas.17.0759

日本語PDF

2018_A02_ja_2401112rev.pdf346.34 KB

English PDF

2018_A02_en_240112rev.pdf351.35 KB

ポスターPDF

2018_A02_poster.pdf266.01 KB

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