キャッサバパルプはC. butyricum の1,3-プロパンジオール生産能を高める

要約

嫌気性細菌Clostridium butyricumを用いたグリセロールからの1,3-プロパンジオール(1,3-PD)生産において、培養時にキャッサバパルプを少量添加すると、1,3-PD生産能を飛躍的に高めることができる。1,3-PD生産能を高めると共にキャッサバパルプの新たな活用方法となる。

背景・ねらい

1,3-プロパンジオール(以下1,3-PD)(図1)は、溶媒、不凍液、接着剤、化粧品、ポリエステル樹脂原料など幅広い分野に用いられる化学物質である。これまでアルデヒド等から薬品、金属触媒を用いて化学合成により工業生産されてきたが、原料の毒性、腐食性、設備コストの面からバイオ技術による生産に期待がもたれている。中でも低環境負荷な製造方法として、グリセロールから直接、微生物に還元させる方法が提案されているが、変換効率が悪く、新たな生産菌の探索や遺伝子組換え等による改良が必要となっている。そこで、嫌気性細菌Clostridium butyricum及びキャッサバパルプを用いた1,3-PDの効率的な生産方法を提案する。

成果の内容・特徴

  1. 嫌気性細菌Clostridium butyricumを用いてグリセロールからグリセロール脱水酵素(dhaB2)、及び1,3-PD 脱水素酵素 (dhaT)により1,3-PDを生合成する(図1)。
  2. C. butyricumを用いた時間あたりの1,3-PD生産量は、グリセロールのみでは培養24時間以降において0.011±0.003 g/L/hであるのに対して、グリセロール60 g/Lにキャッサバパルプを2 g/L添加した場合、培養24時間において無添加の場合の約40倍の0.47±0.01 g/ L/hとなる。生産される1,3-PDの量(g/L)も、大きく向上する(図2)。
  3. 1,3-PD生合成経路の律速酵素であるdhaB2dhaTのmRNA発現レベルは、グリセロールのみの培養に比較し、キャッサバパルプでは約15倍も高発現することから(図3)、キャッサバパルプ添加により、これらの律速酵素が高発現し1,3-PDの生産能が向上すると考えられる。
  4. キャッサバパルプ中の主成分として、スターチ、セルロース、キシランが考えられるが、それぞれの添加効果を検討した結果、キシランにのみ高い1,3-PD生産向上効果が認められている。キャッサバパルプ中のキシラン成分が生産効率の上昇に寄与していることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  1. グリセロールから1,3-PDを生産する際に、スターチ工場から排出される未利用残渣のキャッサバパルプを少量添加すると、1,3-PDの生産効率が飛躍的に高まることから、キャッサバパルプの新しい活用方法になると共に、既存の発酵法へ本方法を用いることで1,3-PD生産効率を向上できる。
  2. 本試験ではキャッサバパルプ濃度を0.2 g/Lとしたが、より少量の0.05 g/Lでも効果が認められる。逆に高濃度添加は、繊維が残り沈殿することから好ましくない。

具体的データ

  1. 図1 嫌気性細菌におけるグリセリンからの1,3-PD生合成経路

    図1 嫌気性細菌におけるグリセリンからの1,3-PD生合成経路

  2. 図2 キャッサバパルプ添加による1,3-PD生産能の向上

    図2 キャッサバパルプ添加による1,3-PD生産能の向上
    数字は24時間培養後の時間当たりの生産効率を示す。

  3. 図3 リアルタイムPCRで確認したキャッサバパルプ添加(10時間後)による律速酵素グリセロール脱水酵素(dhaB2)と1,3-PD 脱水素酵素 (dhaT)のmRNA発現レベル。

    図3 リアルタイムPCRで確認したキャッサバパルプ添加(10時間後)による律速酵素グリセロール脱水酵素(dhaB2)と1,3-PD 脱水素酵素 (dhaT)のmRNA発現レベル。16SrRNAを内在性コントロールとして使用した

Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金 » アジアバイオマス

研究期間

2016年度(2016年度)

研究担当者

小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 70425544
見える化ID: 001772

APIWATANAPIWAT Waraporn ( カセサート大学農業・農業工学生産改良研究所 )

VAITHANOMSAT Pilanee ( カセサート大学農業・農業工学生産改良研究所 )

ほか
発表論文等

Apiwatanapiwat W et al. (2016) J Biotechnol, 230:44-46

https://doi.org/10.1016/j.jbiotec.2016.05.016

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