貯水灌漑技術と確率計画モデルを用いた小規模農家の所得変動リスク管理手法
アフリカの小規模農家の多くは、不安定な天水作物生産に生計を依存しており、所得が変動しやすいが、ため池等を活用した灌漑の導入によって、生産性、収益性の安定化が期待できる。ガーナ北部を対象として構築した、ため池の利用条件、農家の経営条件、各種作物の収量、価格、費用の変動などを反映した確率的営農計画モデルを用いることで、農家が所得変動リスクに対処するための最適な貯水灌漑・作付を計画できる。
背景・ねらい
アフリカの小規模農家の多くは、不安定な天水作物生産に生計を依存しており、収量・価格変動等に起因する所得変動リスク(以下、リスク)への対応に迫られている。対応策の一つとして、ため池等を利用した灌漑の導入が注目されているものの、その有効性に関する実証研究は限られており、農家のリスク管理に適した灌漑計画も明らかでない。本研究は、ガーナ北部を対象として、5年間の農家参加型実証試験・調査の結果をもとに、新しい貯水灌漑技術(既存のため池で雨季にあふれる越流水を、新設された小規模ため池に貯留し、灌漑に利用する技術)を用いたイネ、葉野菜の栽培と既存の天水作物の栽培を組み合わせた確率的な営農計画モデルを構築し、農家のリスク選好に応じた最適な貯水灌漑・作付計画を策定する。
成果の内容・特徴
- 構築されたモデルは、農家の経営条件に加え、貯水灌漑技術の導入における水利条件や社会条件を考慮し、各種作物の収量、価格、費用などの変動に依拠した確率計画法による計算を行うことで、農家のリスク許容度を勘案しつつ、所得向上・安定化に最も効果的な貯水利用・作付体系を特定する(図1)。同モデルでは、リスクの度合いを所得の標準偏差により評価する。
- モデル分析から得られた結果は以下の通りである。
(1) リスク最小型
従来の天水農業と同水準の所得を維持したままリスクを最小化するために は、高収益・高リスクのトウガラシ作を減らし、新たな貯水灌漑技術を用いてイネ、葉野菜を栽培する。
(2) 従来リスク許容型
従来の天水農業と同等のリスクを許容できる場合、主食のトウモロコシの作付を自給可能な水準まで減らし、貯水を最大限利用して灌漑稲作と葉野菜栽培を拡大することで、期待所得が6割ほど増加する。
(3) 期待所得最大型
灌漑稲作と葉野菜栽培を拡大した状態で、天水稲作をコメの自給が可能な水準まで減らし、トウガラシ作を拡大すると、期待所得が最大化される。この場合、期待所得は従来の天水農業に比べ倍増する一方、リスクも増す。ただしこのリスクは、所得が下振れした場合でも従来の天水農業の所得を上回る可能性が高い(図2)。 - 「リスク最小型」は期待所得の増加が限定的であるため、貯水灌漑にかかる投資額の回収が困難である。「期待所得最大型」は4年程度、「従来リスク許容型」は8-12年程度で投資額の回収が可能である(図3)。
成果の活用面・留意点
- 現地の作付計画の立案等が容易に行えるガーナ向けの営農計画策定支援プログラムBFMghを作成し、国際農研のWebサイトに公開している。サンプルデータとして、ガーナ北部の貯水灌漑作物や天水栽培作物のデータを利用できる。
- 確率的営農計画モデルは、貯水灌漑技術以外の開発技術を対象として、リスクを考慮した技術導入計画を策定する研究にも応用できる。
- ガーナ北部を対象として得られた成果であり、その他の地域において貯水灌漑技術を利用する場合は、現地の水利条件等を十分に考慮する必要がある。
- ガーナ北部では、農業用ため池であっても、一部を生活用水として利用する意向を持った住民がいるため、水利用競合の可能性に注意が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
拠出金 » 農林水産省
- 研究期間
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2015~2022年度
- 研究担当者
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小出 淳司 ( 社会科学領域 )
横山 繁樹 ( 企画連携部 )
廣内 慎司 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001783岡 直子 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001802廣瀬 千佳子 ( 元農村開発領域 )
見える化ID: 001803柳原 誠司 ( 生物資源・利用領域 )
見える化ID: 001780小田 正人 ( 元生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-7241-5238大石 亘 ( 筑波大学 )
- ほか
- 発表論文等
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Koide et al. (2021) Agricultural Systems 191:103149.
「営農計画策定支援プログラムBFMgh」 (2022) https://www.jircas.go.jp/ja/database/farm_management_model_for_shfa - 日本語PDF
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2022_B10_ja.pdf3.25 MB
- English PDF
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2022_B10_en.pdf894.66 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。