灌漑地区上流への野菜作導入で農家の所得向上と灌漑水の均等な配分が両立する
背景・ねらい
サブサハラアフリカでは、コメの需要拡大に対応して、灌漑水田の開発と水稲栽培技術の改善が進められ、比較的高い収量を実現している地域も多い。しかし近年、灌漑整備地域において、河川流量の不安定化や水利施設劣化に起因する利用可能灌漑水量の低下、ならびに上流下流間の灌漑水配分の不均等が問題となっている。一方、地方市場でも園芸作物の需要が伸びており農業多様化による農家所得向上の条件が整いつつある。本研究では、灌漑水路の上流に位置する水田を水稲二期作から裏作に畑作物を栽培する二毛作に転換することで、灌漑スキーム全体での効率的な水利用に繋がると考え、タンザニア北部ローアモシ灌漑地区において、作付け体系の転換による節水効果と、生産性、および収益性を比較検討する。成果の内容・特徴
- 水稲作をトウモロコシ作に転換することで、栽培期間中の灌漑水量が77%削減される。栽培期間中の灌漑日数の比較において、野菜作の導入は更なる節水効果が見込まれる(表1)。
- 付加価値額(粗生産額から労働以外の支出額を除いた数値)で比較した土地生産性は、野菜>水田稲>水田裏作トウモロコシ>畑作トウモロコシの順に高く、労働生産性は、水田裏作トウモロコシ>畑作トウモロコシ>野菜>水田稲の順に高い。土地制約が強ければ土地生産性の高い野菜、水田稲、労働制約が強ければ労働生産性の高いトウモロコシの相対的合理性が高まる(図1)。
- 家族労働費を生産費に計上しない所得は、野菜>水田稲>水田裏作トウモロコシ>畑作トウモロコシの順に高く、家族労働費を生産費に計上した利潤は、水田稲>野菜>水田裏作トウモロコシ>畑作トウモロコシの順に高い。水田裏作に野菜を導入すれば水稲二期作を上回る所得が期待できる。ただし、家族労働に対する自己評価が高い世帯は利潤動機が働くので野菜導入の経済的インセンティブは弱い(表2)。
成果の活用面・留意点
- 水不足のために下流域の水稲不作地が増加している灌漑スキームにおいて、上流域に野菜を導入して下流域に余剰灌漑水を配分しイネ作付面積を拡大することで、灌漑スキーム全体の灌漑水の効率的利用と農家の所得向上に繋がることが期待できる。
- 水田裏作に商品作物としての野菜を導入するためには、排水対策等の水管理技術、組織化や契約栽培等の市場対応とリスク管理などにも留意する必要がある。
- 自給作物(稲、トウモロコシ)を減らし利潤変動が大きく貯蔵性のない商品野菜に特化すれば、世帯レベルの食料安全保障を低下させる恐れがある。
具体的データ
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表1 作目別の必要灌漑水量の推計値(2018-19年、1作当たり)
1)水路灌漑。栽培試験の実測値。
2) 同一地区の整備水田であるが、灌漑水の供給がないためにポンプによる個別灌漑で野菜を栽培している水田での聞き取り調査(n=9)。農家が用いるポンプの能力は15 mm/day以下。アフリカンナイトシェイド、アマランサス、タマネギ、ピーマン、白菜、カボチャを販売目的で生産。 -
図1 各作目の土地及び労働生産性
1) 横軸は土地生産性(付加価値額/面積)
2) 縦軸は土地労働比率(面積/投入労働):値が高ければ土地利用型、低ければ労働集約型作物
3) 点線は等労働生産性曲線:労働生産性(付加価値額/投入労働)=土地生産性×土地労働比率
4) Tshはタンザニアシリング:1 Tsh = 0.047円 (2019年11月18日) -
表2 作目別の生産費・経営指標(2018-19年)
1) 浅井戸を水源とするポンプによる個別灌漑。
2) 灌漑費用はポンプ利用の実費用ではなく水田裏作トウモロコシの水利費を採用。
3) 標準的な農業雇用労賃で推計した帰属労働費。
4) カッコ内の数値は変動係数。利潤のバラツキを表しリスクの代理指標となる。図表は横山(2022)より改変(転載・改変許諾済)
- 分類
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行政
- プログラム名
- 予算区分
- 受託[農林水産省「海外農業農村開発促進調査等事業」]
- 研究期間
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2017~2021年度
- 研究担当者
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横山 繁樹 ( 情報広報室 )
- ほか
- 発表論文等
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横山繁樹 (2022) 農業経営研究59(4): 69–74.
- 日本語PDF
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2021_B13_ja.pdf343.46 KB
- English PDF
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2021_B13_en.pdf260.23 KB
- ポスターPDF
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2021_B13_poster.pdf184.11 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。