葉脈の構造は熱帯林樹木の葉の丈夫さと光合成能力に関係している

関連プロジェクト
環境適応型林業
要約

熱帯林樹木の葉脈構造は、葉を光に透かせば判別でき、その構造は葉の丈夫さと光合成能力に関係している。葉を光に透かした際に、葉脈網が明瞭な樹木は葉が丈夫で明るい環境で光合成が高く、不明瞭な樹木は暗い環境での光合成に有利であったことから、葉脈構造は、樹木の機能的特性の簡便な指標としての利用が期待される。

背景・ねらい

東南アジアの熱帯雨林は、活発な光合成活動によって二酸化炭素を吸収し、気候変動の緩和に不可欠であるが、森林の回復速度を超えた過剰な伐採などにより劣化が進み、植林による資源回復が求められている。劣化した森林の環境は元の森林と異なるため、植栽を成功させるためには植栽地の環境に適した樹種を選択する必要がある。これまでは樹種特性を十分把握しないまま植林が行われ生育不良や枯死がおこっている。一方熱帯雨林の多様な樹種の特性を1種ずつ検証することは困難である。そこで、観察が容易な葉に着目し、葉の形態から樹木の特性を簡便に把握する手法の開発を行う。

 

成果の内容・特徴

  1. 本研究では、葉脈の構造に着目する。樹木の葉は大きく2種類の葉脈構造に分類でき、葉を光に透かした際に、葉脈網が明瞭に見える葉は異圧葉と呼ばれ、不明瞭な葉は等圧葉と呼ばれる。前者は葉脈の周りに透明な繊維質の組織(維管束鞘延長部)があるため光が透過するが、後者はこの組織を欠く(図1)。
  2. マレーシアの熱帯雨林で、100樹種以上の葉の丈夫さと光合成を森林の高さ方向と、葉脈構造に着目して調べる。葉の丈夫さと光合成は樹種に関係なく樹高とともに増加し、葉脈の構造が関係する(図2)。樹高が高く強い光を受ける環境では、異圧葉のほうが等圧葉に比べて丈夫で光合成も高い。
  3. 高木になる樹種は異圧葉を持つ割合が高く、低木種は等圧葉を持つ割合が高い。異圧葉は、繊維質の組織を持つため丈夫でかつ、葉内に光が十分透過するため葉全体の光合成が高くなると考えられ、明るく葉の防御力が求められる環境で有利な樹木といえる。一方、等圧葉は、繊維質の組織の代わりに葉緑体を持つ細胞を隙間無く配置し、弱い光を効率的に利用できるため、暗い環境での光合成が有利になる特徴を持つ。

 

成果の活用面・留意点

  1. 葉脈の構造は、熱帯雨林の多様な樹種の中から丈夫で食害に強い樹種や、暗い環境に強い樹種を選ぶ際の簡便な指標としての利用が期待できる。
  2. 樹木の環境への適応能力は葉脈の構造だけでは決まらないことに留意が必要である。例えば、寒さや乾燥への耐性は木材の比重など他の形質が関係している可能性が高いため、どのような形質が指標として利用できるのか多面的に明らかにし、葉脈構造と組み合わせることで植林による資源回復のためにより精度の高い樹種選択の判定に利用できるよう改良が必要である。

 

具体的データ

  1.  

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金

研究期間

2021~2022年度

研究担当者

田中 憲蔵 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 30414486

Mohizah Mohamad ( マレーシア国サラワク森林局 )

市栄 智明 ( 高知大学 )

科研費研究者番号: 80403872

ほか
発表論文等

Kenzo et al. (2022) Frontiers Forest Global Change 5:1002472.
https://doi.org/10.3389/ffgc.2022.1002472

日本語PDF

2022_A08_ja.pdf1.09 MB

English PDF

2022_A08_en.pdf556.62 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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