熱帯林樹木テンバガサラノキとセラヤサラノキの種間雑種の干ばつへの強靭性

関連プロジェクト
環境適応型林業
要約
東南アジアの重要な木材資源であるフタバガキ科のテンバガサラノキは成長が早く植林に適しているが、乾燥耐性が低い。一方、近縁種のセラヤサラノキは成長が遅く収穫まで時間がかかるが、乾燥した立地でも生育する。両者の種間雑種は、葉の厚さや光合成能力、乾燥ストレス耐性等がテンバガサラノキとセラヤサラノキの中間の特性を有しており、干ばつなどの気候変動に対してより強靭な品種作出に利用できる。

背景・ねらい

東南アジアの熱帯雨林地域は、気候変動により干ばつの頻度や強度が高まると予測され、乾燥耐性の低い樹木の枯死や生育不良が危惧されている。この地域の森林で優占するフタバガキ科樹木は、木材資源として重要である。なかでもテンバガサラノキ(Shorea leprosula, 図1)は成長速度が速いため植林に適しているが、乾燥耐性が低い弱点がある。一方、同属のセラヤサラノキ(S. curtisii)は成長が遅く収穫まで時間がかかるが、乾燥した尾根でも生育できる。
種間の雑種は両親種の様々な特性を組み合わすことができるため、特に作物などで優良な品種の作出に利用される。しかし、フタバガキ科樹木では種間雑種の特性は不明である。本研究ではテンバガサラノキとセラヤサラノキの種間雑種の苗木について、葉の形態や光合成能力、人工的な乾燥ストレス下での生理特性を明らかにし、雑種を用いた気候変動に強靭な品種作出の可能性について検討する。

 

成果の内容・特徴

  1. 両親種と雑種で、乾燥耐性と光合成能力に関係する葉の形態を比較する。テンバガサラノキは最も薄い葉を持つが、光合成を活発に行う柵状組織の割合は最も高い。一方、セラヤサラノキは葉が厚く、葉を乾燥から守るクチクラや表皮も厚いが、柵状組織の割合は低い。雑種は葉の厚さが中庸で、柵状組織や表皮の割合も両親種の中間的かほとんど変わらない(図2)。
  2. テンバガサラノキの光合成能力は、セラヤサラノキより高く、速い成長速度と一致する。雑種は両親種の中間で、セラヤサラノキより成長が早い可能性が高い(表1)。
  3. 乾燥ストレスにより枝が通水機能を失うパターンから、セラヤサラノキや雑種の方がテンバガサラノキより強い乾燥に耐えることができる(図3)。
  4. かん水停止により人工的に土壌を乾燥させて、葉の生理機能の変化を調べる。葉の浸透ポテンシャルはテンバガサラノキに比べ、セラヤサラノキと雑種で低く、葉の浸透調節機能が高い。葉が乾燥でしおれる限界値(膨圧喪失時のポテンシャル)から乾燥耐性を評価すると、テンバガサラノキは乾燥により葉がしおれやすいが、雑種やセラヤサラノキではしおれにくく乾燥耐性が高い(表1)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 雑種はテンバガサラノキより葉の形態が乾燥に頑強で、葉や枝の生理的な乾燥耐性も優れる。このことから雑種は、乾燥耐性が高い品種作出への利用が期待できる。干ばつなどの気候変動に強靭な品種が作出できれば、人工林の気候変動適応策に貢献する。
  2. 雑種や雑種由来の品種の植林についてはいくつか注意点がある。例えば、遺伝子資源の保全を目的とした天然林やその隣接地に新しい品種を植栽する場合には、移出や近縁種間での意図しない交雑が生じて純粋な種の遺伝子汚染が起こる可能性がある。そのため、雑種や雑種由来の品種と近縁種との間に稔性を持つ種子ができるのかなどの確認を行う必要がある。

 

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 環境適応型林業

科研費

科研費
研究課題

科研費 20K06153

研究期間

2021~2023年度

研究担当者

田中 憲蔵 ( 林業領域 )

科研費研究者番号: 30414486

市栄 智明 ( 高知大学 )

科研費研究者番号: 80403872

則近 由貴 ( 高知大学 )

上谷 浩一 ( 愛媛大学 )

科研費研究者番号: 80638792

井上 裕太 ( 森林総合研究所 )

Ngo Kang Min ( 南洋理工大学 )

Lum Shawn ( 南洋理工大学 )

ほか
発表論文等

Kenzo T, Ichie T, Norichika Y, Kamiya K, Inoue Y, Ngo KM, Lum SKY. (2023) Drought tolerance in dipterocarp species improved through interspecific hybridization in a tropical rainforest. Forest Ecology and Management 548: 121388
https://doi.org/10.1016/j.foreco.2023.121388

日本語PDF

2023_A06_ja.pdf1.04 MB

English PDF

2023_A06_en.pdf519.18 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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