パッションフルーツの高温域での光合成能は非ストレス条件下の蒸散能で決まる
関連プロジェクト
熱帯作物資源
要約
パッションフルーツにおいて、非ストレス条件(葉温が30°C)下で蒸散速度が高い品種・系統は、葉温が40°C以上になる極めて高温の条件下でも高い純光合成速度を維持する。また、気孔のサイズが大きい品種・系統ほど高い蒸散速度と大きな気孔コンダクタンスを示す。非ストレス条件下での蒸散能や気孔のサイズを選抜指標として利用することで、高温でも高い光合成能を示す系統を効率良く選抜できることが期待される。
背景・ねらい
近年の気候変動による温暖化の影響で、温帯および亜熱帯地域の作物生産が高温害によって脅かされているが、熱帯原産の作物においても高温害は例外でない。パッションフルーツ(Passiflora spp. 、クダモノトケイソウ)は熱帯高地原産であり、一部の種は熱帯低地でも栽培が可能であるものの、概して高温環境下で生育や生産性が劣る。ムラサキクダモノトケイソウ(P. edulis)は果汁の酸度が低く生食での食味が優れる一方で高温での生育や生産性が著しく劣る。キイロトケイソウ(P. edulis f. flavicarpa)は高温に強く一部の熱帯低地でも栽培されるものの、果汁の酸度が高く生食に向かず加工用である。生食用の高品質果実を安定生産するため世界の様々な地域でこれらの交雑品種が作出されているが、高温に強く食味も優れる品種は未だなく、夏季の生産はやはり安定しない。温暖化に対するパッションフルーツの適応性を高めるためには、既存の遺伝資源やそれらの交雑後代の中から高温に適した形質を持つ優れた品種・系統を効率的に選抜する技術開発が急務であるが、夏季の高温多湿な圃場環境下における光合成能を正確に実測し評価することは技術的に非常に困難である。本研究では、温暖化に適応するための基礎的な評価指標として、30°Cを超える高温条件下での個葉光合成速度の減少に着目し、携帯型光合成・蒸散測定装置を用いて、交雑品種および近縁種を含む様々なパッションフルーツ13品種・系統について葉温30–45℃における個葉の光合成を人工気象室内の精緻な環境下で測定する(図1)。光合成速度と蒸散速度および気孔コンダクタンス(数値が高いほど気孔が開いていて、二酸化炭素が葉内に取り込まれやすいことを示す気孔開度の指標)、気孔形態との関係を分析して、高温域での光合成能と強く関連する形質を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 葉温40℃まではおもに気孔の閉鎖で総光合成速度および純光合成速度が低下する一方、葉温40℃以上では呼吸量の増加もあり純光合成速度のみ低下する(図2)。
- 葉温が35℃以上の高温条件下での光合成低下程度は、非ストレス条件(葉温30℃)下での蒸散速度および気孔コンダクタンスと強く相関し(p < 0.01)、気孔がよく開き蒸散速度が高い品種・系統ほど高温条件下で純光合成速度が低下しにくい(図3)。
- 高温条件下での純光合成速度の低下程度、非ストレス条件(葉温が30℃)下での蒸散速度および気孔コンダクタンスは、気孔のサイズと強く相関し(p < 0.01)、気孔サイズが大きい品種・系統ほど葉温が40℃以上の極めて高温の条件下で純光合成速度を高く維持し、且つ非ストレス条件下での蒸散速度が高く、気孔コンダクタンスが大きい(表1)。
成果の活用面・留意点
- パッションフルーツにおいて、非ストレス条件での蒸散能が、温暖化適応への基礎的な指標として評価や選抜に利用できるという本知見は、交配育種による高品質で高温に耐性を持つ系統の作出に役立つ。
- 比較的高温耐性がある熱帯作物においても、施設栽培が中心の我が国では高温の悪影響が懸念されている。本知見は、「みどりの食料システム戦略」で農業生産全般の技術開発目標に挙げられる「耐暑性を向上させた高機能な品種開発」に貢献する情報となる。
- 気孔のサイズと密度は一般的にトレードオフの関係にあるが、パッションフルーツでは気孔のサイズが蒸散能と強く関係し、温暖化適応への基礎的な評価指標としての利用可能性が示唆される。ただし、熱帯低地の近縁種(P. alataとP. laurifolia)を含む交雑育種への本成果の適用については別途検討していく必要がある。
- 蒸散能の形質を効率的に取得するために、蒸散のみを測定するポロメーター法などを用いた簡便な評価手法を今後検討していく必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源
- 研究期間
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2020〜2021年度
- 研究担当者
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松田 大志 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
ORCID ID0000-0003-1205-9395寳川 拓生 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
- ほか
- 発表論文等
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Matsuda and Takaragawa (2023) Horticult. J. 92: 412−423.https://doi.org/10.2503/hortj.QH-060
- 日本語PDF
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2023_C03_ja.pdf914.33 KB
- English PDF
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2023_C03_en.pdf473.21 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。