主要普及成果

簡易茎頂接ぎ木法によるパッションフルーツのウイルスフリー化技術

関連プロジェクト
熱帯作物資源
要約
簡易茎頂接ぎ木法により、トケイソウ潜在ウイルス(PLV)に感染したパッションフルーツ株からPLVフリー株を得ることができる。無菌操作や特殊な施設は不要なうえ、処理約2カ月後にはウイルス検定が可能で、現場への導入が容易である。

背景・ねらい

パッションフルーツ(Passiflora edulis L.)は気候変動に対応できる亜熱帯果樹として国内の生産地が増えているが、栽培増加に伴いPLV等ウイルス病の発生が問題となっている。わが国のパッションフルーツは主に挿し木による栄養繁殖のためウイルス感染が拡大しやすく、増殖用の母樹や株数が限られる遺伝資源が感染してウイルスフリー株の確保が困難になる事例も発生している。
パッションフルーツのウイルスフリー化手法としては無菌環境における茎頂培養法が報告されているが、多大な労力と時間を要する。一方カンキツでは、茎頂培養法よりも効率の良い無菌環境下での茎頂接ぎ木法によるウイルスフリー化技術が開発され、さらには無菌操作を必要としない簡易茎頂接ぎ木法も開発、実用化されている。そこで、労力等軽減により現場への導入を容易にするため、簡易茎頂接ぎ木法によるパッションフルーツのウイルスフリー化技術を開発する。

 

成果の内容・特徴

  1. 一般的な茎頂接ぎ木では暗黒化で育てた軟弱実生幼苗を台木とするが、パッションフルーツでは自然光下で育成した高さ40 cm程度(播種後約2カ月)の充実した実生苗を用いると効率的に茎頂接ぎ木が可能となる(図1)。
  2. 本方法は無菌操作や特殊な施設を必要とせず、一般農家でも実施可能である。慣れれば1時間に10処理以上実施できるなど作業効率が良い。
  3. 茎頂の長さ2 mm以下で切り取るとPLVフリー化が可能となる(表1)。切り取る茎頂が小さいほどPLVフリー化率は高くなるが、活着率は低下する(表1)。
  4. 茎頂接ぎ木後30日程度で発芽する(表2)。また、発芽1カ月後にはウイルス検定が行える大きさに成長する(図1)。
  5. 気温が高いと活着率が低下する(表2)。このため、盛夏期は避けるのが望ましい。
  6. 穂木の枝を採取後1日経過してから茎頂接ぎ木を行なってもPLVフリー株が得られる(表3)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 全国のパッションフルーツ種苗生産業者、栽培者、試験研究機関でのウイルスフリー株育成に利用できる。
  2. 原因不明の複数ウイルス様症状について本簡易茎頂接ぎ木法で症状除去に成功しているため、PLV以外のウイルスにも有効と考えられる。ただし、症状除去に必要な茎頂の長さは症状により異なり、場合によっては0.5 mm以下で茎頂を切り取る必要がある。
  3. 解説動画をYouTubeのJIRCAS channel、詳細な作業手順、注意点等を説明した実施マニュアルを国際農研WEBサイトの「マニュアル・ガイドライン」で公開予定である。

 

具体的データ

  1. 図1 パッションフルーツの簡易茎頂接ぎ木手順概要
    図の白線は1 mm長; Cの赤丸内は接ぎ木した穂木(茎頂)

     

  2.  表1 茎頂(穂木)の長さが活着率、およびウイルスフリー化率に及ぼす影響

    Z:Fisher's exact test により*は5%水準で有意差有。 

     

  3. 表2 簡易茎頂接ぎ木時の気温と活着率、ウイルスフリー化率との関係

    切り取った茎頂(穂木)の長さは0.5-1 mm。
    Z:Fisher's exact testにより*は5%水準で有意差有、 NSは有意差無。

     

  4. 表3 穂木の保存条件が活着率、およびウイルスフリー化率に及ぼす影響

    切り取った茎頂(穂木)の長さは0.5-1 mm。
    Z:Fisher's exact testによりNSは5%水準で有意差無。



    図表は Ogata and Yamanaka (2021) より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

技術

研究プロジェクト
プログラム名

情報

情報収集分析

予算区分

交付金 » 目的基礎 » 戦略的熱帯果樹研究

交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源

研究課題

G-5. 国内外への展開を目指した熱帯・島嶼研究拠点の戦略的熱帯果樹研究【戦略的熱帯果樹研究】

研究期間

2017~2022年度

研究担当者

山中 愼介 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001785

緒方 達志 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001788

ほか
発表論文等

Ogata and Yamanaka (2021) Horticulture Journal 90: 280–285
https://doi.org/10.2503/hortj.UTD-259

日本語PDF

2021_C02_ja.pdf416.6 KB

English PDF

2021_C02_en.pdf1.26 MB

ポスターPDF

2021_C02_poster.pdf1.37 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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