モザンビーク飼料資源を用いた発酵TMR給与は牛乳生産量と収益性を向上させる
モザンビーク南部で入手できる飼料資源を活用して良質な発酵TMR(混合飼料)を調製できる。発酵TMRを給与することで、慣行的な飼養法に比べてジャージー種乳牛の採食量と消化率を改善し、乳生産量と収益性を向上できる。
背景・ねらい
サブサハラアフリカにおいては、乾季中の飼料不足が、家畜生産を制限する大きな要因となっている。その南部に位置するモザンビークでは、反芻家畜は自然草地での放牧を主体に、作物残渣の補助的な給与を組み合わせて慣行的に飼養されている。しかし、この飼養法では乳牛の栄養要求を満たさない上に、低質な粗飼料の給与は乳生産に悪影響を与える。そこで、この国で入手できる飼料資源を活用する発酵TMRを調製し、飼養法の改善により家畜生産性を向上させ、地域の畜産振興や人々の豊かな生活の実現に寄与する。成果の内容・特徴
- モザンビーク産牧草、作物副産物及び配合飼料等、現地で入手できる飼料資源を活用する発酵TMRは、プラスチックバッグ簡易貯蔵法により調製できる(図1)。
- 発酵TMRには、ネピアグラス(Pennisetum purpureum Schmach)、トウモロコシフスマ、小麦フスマ及び配合飼料が使用され、粗蛋白質と粗脂肪等の豊富な栄養成分を含み、ジャージー種乳牛の栄養要求を満たすことができる(図2)。
- 調製後14日を経た発酵TMRのpHが3.9、アンモニア態窒素含量が原物重量比で0.01%未満、酪酸とプロピオン酸は検出されない一方、乳酸が1.0%生成され、その発酵品質は評価基準に基き良質である(表1)。
- 家畜試験(3〜4才齢のジャージー種乳牛10頭、体重336.6±19.8 kg)の結果、慣行飼料に比べ、発酵TMRは嗜好性に優れ、その給与により乳牛の採食量及び乾物消化率は改善され、乳量及び収益性も増加する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 雨季と乾季を有する熱帯・亜熱帯に属する他の地域でも、入手可能な密封資材と飼料資源を用いて配合割合等を工夫することで発酵TMRによる乳牛飼養法を改善し、現地での安定的な乳生産に活用できる。
- 簡易調製法で作成したTMRを1ヵ月以上貯蔵する場合、プラスチックバッグの劣化と破損による好気的変敗の発生に留意する必要がある。
- 本試験では高水分のネピアグラスを主体とした発酵TMRのみを調製したため、発酵させないTMRの給与効果については、別に確かめる必要がある。
- 本成果は飼養法の改善に限定するものであり、疾病対策をはじめとする衛生管理や繁殖管理等、酪農振興を妨げる他の要因については、改善に向けた別の取り組みが必要である。
具体的データ
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図1 発酵TMRの調製(左)、貯蔵(中)及び乳牛への給与(右) -
図2 発酵TMRの配合割合(左)と飼料成分(右) 易消化性炭水化物=炭水化物-粗繊維-リグニン
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表1 調製14日後の発酵TMRの発酵品質
評価基準 TMR原料 発酵TMR pH <4.2 6.2 3.9 乳酸、原物中% ≧1.0 ND 1 酢酸、原物中% - ND 0.3 プロピオン酸、原物中% ND ND ND 酪酸、原物中% ND ND ND アンモニア態窒素、原物中% <0.05 ND <0.01 ND: 検出されない、原物:新鮮物。
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図3 慣行飼料に対する発酵TMR給与の効果
乳量:泌乳牛の搾乳量。n=5。*: t 検定で有意差(p < 0.05)あり。
- Affiliation
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国際農研 生産環境・畜産領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » アフリカ食料
- 研究期間
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2020年度(2016~2020年度)
- 研究担当者
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蔡 義民 ( 生産環境・畜産領域 )
杜 珠梅 ( 生産環境・畜産領域 )
山崎 正史 ( 生産環境・畜産領域 )
大矢 徹治 ( 生産環境・畜産領域 )
Nguluve Damiao ( モザンビーク国立農業研究所 )
Tinga Benedito ( モザンビーク国立農業研究所 )
Macome Felicidade ( モザンビーク国立農業研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Du Z et al. (2020) Animal Science Journalhttps://doi.org/10.1111/asj.13370
- 日本語PDF
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2020_B05_A4_ja.pdf551.6 KB
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- English PDF
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- ポスターPDF
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2020_B05_poster.pdf235.85 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。