リン欠乏水田への家畜ふん堆肥の選択的施用が水稲収量を向上させる
背景・ねらい
貧栄養土壌が広がるサブサハラアフリカでは、コメの需要が急増する一方で、単収は、2.3t ha-1と依然として低い(FAOSTAT, 2025)。化学肥料による増収は可能だが、肥料価格の高騰により小規模農家の経済的負担は大きく、農家が自給できる家畜ふん堆肥(FYM)を効率的に活用して、収量を改善することが重要となる。アフリカの強風化土壌では、リン欠乏が主要な生産阻害要因の一つとなる。土壌中のリンが鉄やアルミニウムに強く吸着されるため、リンが存在していても、作物は吸収できない。近年、FYMなどの有機物施用は、吸着リンを可溶化し、作物のリン吸収を促すことが示されており、リン欠乏条件下での増収効果が期待される。しかし、土壌のリン欠乏とFYMの増収効果との関係に着目し、農家圃場で体系的に検証した研究例は乏しく、FYMを効率的に利用するための科学的検証が必要となる。
そこで本研究では、リン欠乏水田が広がるマダガスカル中央高地において、可給態リン量が異なる4か所の農家圃場を対象に、FYMの施用効果を検証する。さらに、サブサハラアフリカの農家圃場で水稲へのFYMの施用効果を検証した研究例を土壌のリン欠乏程度の影響から再解析することで、リン欠乏水田でのFYMの有効性を広域的に検証する。
成果の内容・特徴
- マダガスカルの農家圃場において、慣行の施用水準に基づき、FYMを毎年、10 t ha-1(生鮮重)施用することで、水稲の増収効果が大きくなる。その程度は、非リン欠乏水田に比べて、リン欠乏水田で有意に大きい。FYM連用による増収効果は非リン欠乏水田では1年目0.1 t ha-1、4年目0.6 t ha-1にとどまるのに対し、リン欠乏水田では1年目0.5 t ha-1、4年目には2.0 t ha-1に達する(図1破線)。
- FYMの連用効果は、窒素肥料(尿素)と組み合わせることでより大きくなる。リン欠乏水田でFYMと窒素肥料を4年間連用すると、その増収効果は3.1 t ha-1となり、非リン欠乏水田にFYMのみを連用したときに得られる増収効果0.5 t ha-1に比べて有意に大きい(図1・実線)。
- FYMの施用による4年間の増収効果の平均値は、リン欠乏水田が1.5 t ha-1で、非リン欠乏水田の0.4 t ha-1に比べて有意に大きい(図2)。リン欠乏水田では、化学肥料(窒素とリン)施用による平均増収量は2.0 t ha-1であり、FYMの増収効果はその77%に相当し、化学肥料へ依存せず、リン欠乏条件下での収量改善が可能であることを示す。
- 文献調査をもとに、サブサハラアフリカの6か国(マダガスカル、ケニア、ナイジェリア、コートジボワール、ガーナ、タンザニア)、計13地点で実施された圃場試験を分析した場合も同様の傾向がみられる。すなわち、FYMの施用による水稲の平均増収効果は、リン欠乏水田が2.3t ha-1で、非リン欠乏水田の0.7t ha-1に比べて有意に大きい(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本研究は、土壌の可給態リン量に応じてFYMの増収効果が異なることを示し、リン欠乏水田へのFYMの選択的施用の有効性を裏付ける。これにより、サブサハラアフリカに広く分布するリン欠乏水田において、化学肥料への依存を低減しつつ、自給可能なFYMを活用したコメ増産が期待できる。
- 効果をより安定して発揮させるためにはFYMの施用量や原料組成、また腐熟の程度が増収効果に及ぼす影響について検証が必要である。
- 長期間にわたる連用効果や、FYMの施用を停止した後の残効効果については、継続的な検証が必要である。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム
受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上
- 研究期間
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2017〜2024年度
- 研究担当者
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浅井 英利 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0003-0125-1234科研費研究者番号: 30599064辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0001-7738-9913科研費研究者番号: 20588511西垣 智弘 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-6669-803X科研費研究者番号: 80795013Andriamananjara Andry ( アンタナナリボ大学 )
ORCID ID0000-0001-5372-7359Rakotonindrina Hobimiarantsoa ( アンタナナリボ大学 )
ORCID ID0000-0001-5857-9471 - ほか
- 発表論文等
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Asai et al. (2025) Field Crop Research 23: 590−601https://doi.org/10.1016/j.fcr.2025.109932
- 日本語PDF
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2025_B14_ja.pdf2.28 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。