タイ東北部における小型テナガエビ類の生活史特性と資源管理方策

関連プロジェクト
熱帯水産養殖
国名
タイ
要約
インドシナ半島内陸部で重要な水産資源である小型テナガエビ類 Macrobrachium lanchesteri 種群は、タイ東北部において周年産卵を行うが、産卵は雨季中盤の6~8月に集中し、11~12月には停滞する。9~11月には同年生まれの未成熟個体が漁獲対象資源に加入し、翌年3~5月に孵化後1年未満で初回成熟・産卵に至る。本研究で明らかとなったこれらの生活史特性は、同地域で実施されている禁漁措置の有効性評価および資源管理方策の検討に資する基盤情報となる。

背景・ねらい

 小型テナガエビ類 Macrobrachium lanchesteri 種群(図1)は、タイをはじめとするインドシナ半島内陸部において日常的に消費される水産資源であり、オニテナガエビに次いで重要な淡水産甲殻類である。しかし、本種群の生活史に関する知見は限られており、ミャンマーのエーヤワディー川中流域やタイ北部のメコン川流域の個体群において産卵期や雌の成熟サイズが報告されているにとどまる。特に、漁獲対象資源への加入時期やその後の成長過程については不明である。加えて、タイ東北部に分布する個体群については、生活史全般が明らかにされておらず、資源管理に資する情報はほとんど得られていない。そこで本研究では、2022年6月~2023年5月にかけて毎月1回、本種群が周年漁獲されているタイ東北部ウボンラチャタニ県内の三日月湖でエビ籠を用いて本種群を採集した。性別の判別と体サイズ測定を行い、雌個体については成熟状況を記録することで、成長、成熟、産卵および漁獲対象資源への加入時期等の資源生物学的特性を明らかにする。これらの知見に基づき、本資源を持続的に利用するための効果的な資源管理方策を検討する。なお本種群は一生淡水で生活し、その生息地から大きく移動することはない。

成果の内容・特徴

  1. 本研究で採集された成熟雌(腹部に卵を抱えている(図1A)、あるいは卵巣が発達している(図1Bの上))の最小サイズは、頭胸甲長4.6 mmである(図2の赤い実線)。
  2. 成熟雌は年間を通じて出現するものの、その出現割合が高い雨季中盤の6~8月が産卵盛期である(図3の赤い網掛け)。この時期には、発達した卵巣をもち、同時に腹部に卵を抱えている成熟雌の割合も高く(図3の赤い網掛け)、短い間隔で成熟と産卵を繰り返す多回産卵を行っている。
  3. 11~12月は成熟雌の出現割合が最も低い産卵の停滞期であるが(図3の青い網掛け)、同時期に雌の肥満度が上昇することから(図4の網掛け)、この期間に雌個体は次回産卵へのエネルギーを蓄えている。
  4. 9~11月にかけて最小成熟サイズに達していない未成熟雌が標本中に多数出現する(図2中ほどの灰色の網掛け)。これは同年産まれの個体が漁獲対象資源に加入する過程を捉えたものである。
  5. 頭胸甲長組成と成熟割合の推移から、上述の新規加入群の雌は、翌年3~5月(孵化後1年未満)に初回成熟を迎える(図2下部の赤い網掛け)。
  6. タイ内陸部の公共水面では、種を問わず雨季の6~9月が禁漁期に設定されている(一部小規模漁業を除く)。この禁漁期間は本種群の産卵盛期とも対応しており、現行の禁漁期設定は本種群の資源保護措置としても有効と評価される。
  7. 更なる資源管理方策として、9〜11月に漁獲対象資源に加入する小型未成熟エビが翌年春に初回成熟するまでの間、漁獲による減耗を控えるのが有効である。

成果の活用面・留意点

  1. 本種群個体群の産卵盛期と新規加入群のサイズおよび加入時期、初回成熟までの期間等の情報は、産卵親エビの保護による加入乱獲の防止や新規加入群の初回成熟前の獲り控えを通じた将来的な産卵親エビ確保に資する。
  2. 漁獲対象資源に加入する前の未成熟小型エビの保護には、漁獲努力量の抑制に加え、漁具の目合規制やシェルターとなる生息環境の保全などが有効である。
  3. 本研究では、9月に発生した大規模洪水の影響により、親エビが卵を脱落させた可能性がある。この時期の成熟・産卵状況については、追加調査が望まれる。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

予算区分

交付金 » 第5期 » 食料プログラム » 熱帯水産養殖

研究期間

2022~2025年度

研究担当者

齋藤 ( 水産領域 )

科研費研究者番号: 20869474

本田 ( 水産領域 )

Grudpan Chaiwut ( ウボンラチャタニ大学 )

Grudpan Jarungjit ( ウボンラチャタニ大学 )

Jutagate Achara ( ウボンラチャタニ大学 )

Jutagate Tuantong ( ウボンラチャタニ大学 )

ほか
発表論文等

Saito et al. (2025) Fisheries Research 292: 107569
https://doi.org/10.1016/j.fishres.2025.107569

日本語PDF

2025_B06_ja.pdf943.98 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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