ラオス産黒米由来で玄米のフィチン酸含量を高める量的遺伝子座qPA1の検出
背景・ねらい
ラオス北部の山岳地帯では陸稲栽培が中心であるが、土壌肥沃度が低く、平均収量は約2.0 t ha⁻¹と低水準にとどまっている。この地域では黒米が伝統的に栽培されており、栄養性や健康機能性の観点から地域住民の食生活を支える重要な作物である一方、低肥沃度条件下における生育不良が安定生産の大きな制約となっている。
玄米中のリンの約60~90%はフィチン酸として存在し、ヒトの栄養利用の観点ではミネラル吸収阻害因子として議論される場合がある。しかし、イネにとってフィチン酸は、発芽および初期生育段階における主要なリン供給源であり、特に低リン条件下では初期生育を支える重要な貯蔵形態リンとして機能する。したがって、フィチン酸は作物側の適応性を規定する重要形質であり、低肥沃度環境に適応したイネ品種の育成においては、玄米中のリン貯蔵特性、特にフィチン酸含量に着目した育種戦略が重要である。
本研究では、ラオス産黒米品種Kampengと安定多収の白米品種Nonの交雑後代を用いて、玄米中のフィチン酸含量に関与する量的遺伝子座の探索を行う。さらに、黒米の形質的特徴と収量性の両立を可能とする育種基盤の構築に向け、低肥沃度環境下において良好な初期生育と安定生産を実現する黒米育成の方向性を提示する。
成果の内容・特徴
- 白米品種Nonは黒米品種Kampengに比較して穂数が多く収量性が高い草型を有する(図1A、B)。一方で、玄米中のフィチン酸含量はKampengがNonよりも有意に高い(図1C)。
- NonとKampengの交雑由来F2集団を石垣およびビエンチャン(ラオス)の環境で栽培試験に供試した結果、どちらの環境においても第1染色体短腕末端にフィチン酸含量に関与する新規量的遺伝子座qPA1が安定して検出される(図2A)。
- 玄米色(黒/白)に関与する量的遺伝子座は、健康機能性成分であるアントシアニンの着色制御遺伝子として既報のKala4上に検出され、Kampeng型が玄米を黒色化する(図2B)。
- F2集団由来の次世代F3系統のうち、qPA1がKampeng型およびNon型にそれぞれ固定した系統を栽培調査した結果、Kampeng型がNon型に比較して玄米中のフィチン酸含量が約23%高い(図3)。
成果の活用面・留意点
- 戻し交雑育種により、Kampeng型qPA1およびKala4をNonに導入することで、低肥沃度環境下においても発芽・初期生育時のリン供給能が高く、かつ収量性にも優れた黒米新品種の育成が可能となり、ラオス北部などの低肥沃度環境における安定生産への貢献が期待される。
- 石垣の環境でもqPA1を検出できたことから、qPA1によってラオス以外の環境でもフィチン酸含量を増やせる可能性がある。
- フィチン酸のヒトにおけるミネラル吸収阻害性については、発芽玄米としての利用や、フィチン酸を脱リン酸化してイノシトールへと変換する麹甘酒などの加工・利用技術により低減可能であり、作物側の育種上の利点とヒト側の利用上の懸念は切り分けて考えることができる。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » 新需要創造
- 研究期間
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2021~2024年度
- 研究担当者
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髙井 俊之 ( 生産環境・畜産領域 )
浅井 英利 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0003-0125-1234科研費研究者番号: 30599064アウンゾーウー ( 生産環境・畜産領域 )
丸井 淳一朗 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0002-7084-6461見える化ID: 001765齊藤 大樹 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
Vilayheuang Koukham ( ラオス国立農林研究所 )
Phongchanmixay Sengthong ( ラオス国立農林研究所 )
- ほか
- 発表論文等
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Takai et al. (2025) Frontiers in Sustainable Food Systems 9: 1620644https://doi.org/10.3389/fsufs.2025.1620644
- 日本語PDF
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2025_B02_ja.pdf1.1 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。