キヌアの高塩耐性を支える3つのNa+排除輸送体
背景・ねらい
地球上には約1,700万km2もの塩害地域があり、今後も拡大が予測される。しかし、イネ、ダイズなど主要作物は塩害に弱く、塩害地域での収量減少が懸念される。キヌアは、優れた栄養特性と高塩濃度などの過酷な環境に対する高い適応性を併せもつ作物である。気候変動による地球環境の劣化が危惧される中で、将来、貴重な食料源となることが期待される。キヌアは、南米ボリビアのウユニ塩湖の周辺でも栽培されており、高塩濃度環境でも生育できる。しかし、キヌアのもつ高い塩耐性機構については、これまでよく分かっていない。これまでに、ウユニ塩湖周辺の過酷環境に適応した南部高地系統について高精度なゲノム配列情報を整備し、キヌア集団における多様性を網羅的に比較するゲノム解析基盤として活用できることを示した(令和6年度国際農林水産業研究成果情報B02「アンデス高地で栽培化された高地型キヌア系統の高精度ゲノム配列情報」)。本研究では、遺伝子型によって分類された栽培地域が異なるキヌアの3種類の系統群(北部高地系統、南部高地系統および低地系統)を用いるとともに、これまで開発してきた分子レベルでの解析技術やゲノム情報を駆使して、キヌアがもつ高い塩耐性を支えるメカニズムを解明する。成果の内容・特徴
- 3系統群(各6系統ずつからなる計18系統)のキヌア幼植物はいずれも高い塩耐性をもち、高塩濃度(海水レベルの塩濃度である600 mM NaCl)条件下でも生育が維持される(図1)。
- 塩処理はK+蓄積量に影響することが知られているが、高塩濃度で処理したキヌア幼植物では、K+の蓄積量は根において顕著に減少する一方、地上部ではほとんど減少しない。キヌアは高塩濃度下においても、生育に必須なK+濃度を高く維持する能力を有している。
- 高塩濃度で処理したキヌア幼植物の子葉におけるNa+の蓄積量は、低地系統で最も多く、次いで、北部高地系統、ウユニ塩湖周辺の南部高地系統の順に少なくなる傾向を示す。また、地上部のNa+蓄積量の系統による違いは、キヌアの地上部のNa+の取り込み量の違いに起因する(図2)。
- 3つのキヌアNa+輸送体遺伝子(CqHKT1;1、CqHKT1;2 およびCqSOS1 遺伝子)の発現量は、高塩濃度処理によって大きく変動しないが、3種類の系統群間で顕著に異なる。また、これら遺伝子の発現制御領域の配列には系統群間で違いがある。これらの発現量および発現制御の違いが、系統間にみられるNa+蓄積量、ひいては塩耐性の差に関与していると考えられる。
- CqHKT1;1、CqHKT1;2 あるいはCqSOS1遺伝子の発現が抑制されると、いずれの場合も地上部へのNa+蓄積量が増加する(図3)。このことから、これらの輸送体が地上部へのNa+侵入抑制に重要であることが示唆される。
成果の活用面・留意点
- キヌアにおけるNa+排除機構の一端を明らかにしたことにより、キヌアのもつ高い塩耐性機構の解明につながる。また、キヌアの塩耐性機構は、塩耐性作物開発の基礎知見となる。
- キヌア系統間におけるNa+排除を担う輸送体遺伝子配列の特異性が発現応答や輸送能などに影響を与える可能性を考慮する必要がある。
具体的データ
- 分類
-
研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
-
交付金 » 第5期 » 食料プログラム » レジリエント作物
受託 » JST/JICA SATREPS » 高栄養価作物キヌアのレジリエンス強化生産技術の開発と普及
受託 » ムーンショット型農林水産研究開発事業
科研費 » 基盤研究B
科研費 » 基盤研究C
科研費 » 国際共同研究加速基金(海外連携研究)
科研費 » 基盤研究C
科研費 » 挑戦的研究(萌芽)
科研費 » 基盤研究A
科研費 » 基盤研究C
科研費 » 基盤研究A
- 科研費
- 研究期間
-
2021~2025年度
- 研究担当者
-
小林 安文 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0002-8357-6579科研費研究者番号: 00836968村田 善則 ( 生物資源・利用領域 )
小賀田 拓也 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0003-3361-6234科研費研究者番号: 00724501永利 友佳理 ( 生物資源・利用領域 )
藤田 泰成 ( プログラムディレクター(食料) )
ORCID ID0000-0002-5036-8319科研費研究者番号: 00446395杉田 亮平 ( 名古屋大学 )
ORCID ID0009-0000-0858-1821科研費研究者番号: 60724747藤田 美紀 ( 理化学研究所 )
ORCID ID0000-0003-4201-4876科研費研究者番号: 70332294安井 康夫 ( 京都大学 )
ORCID ID0000-0003-3804-7886科研費研究者番号: 70293917 - ほか
- 発表論文等
-
Kobayashi et al. (2025) Front. Plant Sci. 16: 1597647https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1597647
- 日本語PDF
-
2025_B01_ja.pdf3.29 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。