クエン酸輸送体FRDL1の欠損がもたらすイネの鉄過剰ストレス耐性
背景・ねらい
鉄は植物の必須元素であるがその過剰な供給は植物の生育に悪影響を及ぼす。アフリカや東南アジアの水田では、鉄過剰ストレスが幅広く発生しており、地域の水稲収量の阻害要因となっている。これまでに、鉄過剰ストレス圃場において耐性を発揮する系統の中に、地上部への鉄蓄積を抑制するものが知られている。しかし、鉄過剰ストレス条件で地上部への鉄蓄積の抑制に関わる遺伝子や分子メカニズムは明らかになっていない。
本研究では、根で吸収された鉄が主にクエン酸によりキレート*されて地上部に移行することに着目し、クエン酸輸送体の機能が欠損した系統の評価を行う。また、クエン酸輸送体の欠損が鉄過剰ストレス耐性を変化させる生理的メカニズムを明らかにするとともに、鉄過剰ストレス耐性の向上を目指した育種への応用可能性を検討する。
*キレート : 金属イオンと結合することで、金属イオンを安定化させたり輸送しやすい形態に変化させたりすること。
成果の内容・特徴
- 根の導管で主に発現するクエン酸輸送体FRDL1が欠損した系統(以下、frdl1変異体)では、過剰な二価鉄(300 mg Fe L-1に相当するFeSO4)を与えた条件で、葉の褐変症状の形成の程度の指標である褐変症状スコアが野生型と比べて有意に低下する。一方、根の表皮細胞で発現し、根圏へのクエン酸の放出に関わる輸送体FRDL4の変異体では野生型と同程度の葉の褐変症状を形成する(図1)。
- frdl1変異体では、過剰な二価鉄(300 mg Fe L-1に相当するFeSO4)を与えた場合に、野生型と比べて根の鉄濃度には変化がないのに対し、葉の鉄濃度が43%減少する。一方、同量の鉄をキレート鉄(三価鉄-EDTA)として与えた場合にはこのような系統間差はみられない(図2)。
- 鉄過剰ストレス耐性の低い感受性品種Ciherangと、日本晴背景のfrdl1変異体の交雑後代(F2世代)を過剰な二価鉄 (300 mg Fe L-1に相当するFeSO4) を鉄源とする水耕溶液で8日間栽培し、葉の褐変症状と葉身の鉄濃度を比較すると、機能型のFRDL1をもつ個体群と比べて、変異型のFRDL1をもつ個体群の葉身の鉄濃度が有意に低下し、褐変症状の形成が抑えられる(図3)。
- これらのことから、FRDL1の欠損は、根導管のクエン酸存在量を低下させ、根から地上部への鉄輸送を制限することで、鉄過剰ストレス耐性を向上させるメカニズムが示唆される(図4)。
成果の活用面・留意点
- 根におけるFRDL1の機能を制御することで、イネの鉄過剰ストレス耐性を改善できる可能性がある。
- FRDL1は穂への鉄の転流にも関わるため、同機能の制御が籾の稔実に負の影響を及ぼす可能性がある。そのため、根特異的にFRDL1の発現の調節に関わる因子を特定し、それを活用した育種を進めていくことが重要である。
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » アフリカ稲作システム
- 研究期間
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2022~2025年度
- 研究担当者
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植田 佳明 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-4304-368X科研費研究者番号: 70835181 - ほか
- 発表論文等
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Ueda (2025) Plant Biol.https://doi.org/10.1111/plb.70107
- 日本語PDF
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2025_B15_ja.pdf879.95 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。