植物にも存在したナトリウム(排出)ポンプ(Na+-ATPase)

要約

海産の藻類 Heterosigma akashiwoナトリウム(排出)ポンプをコードする遺伝子HANA)は1330アミノ酸からなる推定分子量146kDa、10の膜貫通領域を持つ膜タンパクをコードしている。HANAは、植物からは初めてクローニングされたナトリウムポンプの遺伝子である。

背景・ねらい

   世界各地で見られる、土壌の塩類集積や海水の進入などによる塩害拡大により、耐塩性作物の作出が求められている。植物には、ナトリウムを直接細胞外へ排出するポンプとして働くタンパク質は存在しないと考えられていたが、本研究では遺伝子導入による耐塩性作物作出技術の開発の一環として、海産の藻類H. akashiwoよりNa+-ATPase(ナトリウムポンプ)遺伝子をクローニングする。

成果の内容・特徴

  1. H. akashiwo cDNAライブラリーから、植物からは初めてとなるナトリウムポンプ(図1、図2)の遺伝子( HANA, 4467bp)のクローニングを行った。
  2. HANAタンパクは、1330アミノ酸からなる推定分子量は146kDaの膜タンパクで、10の膜貫通領域を持つと考えられる(図3)。
  3. HANAタンパクは、アミノ酸全体で、動物の Na+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)と40 %以上の相同性を示す。しかし動物と違い、7番目と8番目の膜貫通領域の間に285アミノ酸の長い親水性部位を持つことが大きな特徴となっている(図3)。おそらく動物のようなヘテロなサブユニット(βサブユニット)構造は持たないと思われる。
  4. 培地の塩濃度を変化させても遺伝子、タンパク質の発現量は共にほとんど変化は見られない(data not shown)。細胞外のナトリウム塩濃度が上昇しても、細胞内の塩濃度は変化していない可能性を示唆している。
  5. アミノ酸配列に基づいたP-type ATPaseタンパク質の系統樹(図4)の中でHANAタンパクは、無脊椎動物のNa+/K+-ATPase αサブユニット群と最も近い分子であり、Na+/K+-ATPaseのクラスターに分類される。イーストのNa+-ATPase(ナトリウムポンプ)はCa2+-ATPase(カルシウムポンプ)のクラスターに分類されるため、Na+輸送に関して別の系統発生が行われたと考えられる。

成果の活用面・留意点

H. akashiwoのナトリウムポンプの遺伝子( HANA)は遺伝子導入による耐塩性作物作出のための候補として有望である。

具体的データ

  1. 図1
  2. 図2
  3. 図3
  4. 図4
Affiliation

国際農研 沖縄支所

分類

研究

予算区分
国際農業〔耐塩性作物育成技術〕
研究課題

耐塩性作物育成技術の開発

研究期間

平成12年度(4~13年度)

研究担当者

庄野 真理子 ( 沖縄支所 )

和田 雅人 ( 果樹試験場 )

諭吉 ( 東京医科歯科大学 )

ほか
発表論文等

遺伝子情報データベースDDBJに登録 (accession number AB017481)

M. Shono, M. Wada, Y. Hara and T. Fujii (2001) Molecular cloning of Na+-ATPase cDNA from a marine alga, Heterosigma akashiwo, Biochim. Biophys, Acta 1511, 193-199.

日本語PDF

2000_27_A3_ja.pdf943.72 KB

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