水稲へのリン浸漬処理P-dippingは4.5~6.5葉程度の苗を用いると増収効果が高い
背景・ねらい
国際農研が開発したリン浸漬処理P-dippingは、マダガスカルの稲作農家への普及が進む有望技術である(令和2年度国際農林水産業研究成果情報B02「移植苗のリン浸漬処理はイネの施肥効率を改善し低温ストレスを回避する」)。同技術では、水稲の移植時に、リン肥料(重過リン酸石灰)を混ぜた「泥」を苗の根に付着させる。そのため、苗の根が発達するほど、「泥」の付着量、すなわち、移植時に株元に施用されるリン量は多くなる。一方で、育苗期間が長すぎる場合には、苗の質が低下し、肥料焼けにともなう苗の植え傷みのリスクが大きくなる可能性がある。現地の農家がP-dippingを実践する上で、植え傷みのリスクを回避し、施肥効果の高い苗を使用することが重要である。そこで本研究では、葉齢*の異なる苗を用いて、P-dippingによる「泥」の付着量や初期の生育改善効果、さらに、農家圃場での増収効果を調査し、同技術に最適な苗の特性を明らかにする。
*主茎に展開した葉の数(不完全葉を含む)のこと。イネの生育ステージを示す指標。
成果の内容・特徴
- 昼/夜温25/15℃、照度20,000 lxの人工気象器で育苗したイネ品種X265の苗の根重は、葉齢が大きくなるほど直線的に増加する。一方で、根に付着する「泥」の量は、葉齢に対してS字型の増加を示す。葉齢4.5~6.5葉程度の範囲で、「泥」の付着量、すなわち、リン施用量は大きく増加する(図1)。
- P-dippingによる移植30日後の地上部乾物重の増加量は、苗の葉齢が6.5葉程度になるまで、「泥」の付着量とともに大きくなる。ただし、6.5葉程度より大きい苗では、乾物増加量は減少する。人工気象器内で8葉程度まで無施肥で育苗すると、苗質が顕著に低下し、移植後の植え傷みにより、稲株が枯死する(図2)。
- マダガスカル中央高地に分布する90地点の農家圃場(標高1,300~1,945 m、育苗期間中の日平均気温17.5~21.9℃)での検証から、葉齢が4.5~6.5葉程度の苗(各圃場で農家が任意に選んだX265を含む15品種)が用いられた圃場で、P-dippingによる平均の増収量がヘクタール当り1.0トンで最も大きくなる。葉齢が4.5葉程度より小さい、もしくは、6.5葉程度より大きい苗が用いられた圃場では、P-dippingによる平均の増収量は、ヘクタール当り0.6トン、もしくは0.7トンである(表1)。
- 以上より、P-dippingには、4.5~6.5葉程度の苗を用いることが推奨される。苗がより小さい場合、根に付着するリン肥料の量が少なくなる。逆に、育苗日数が長く苗質が低下した場合には、肥料焼けをともなう植え傷みのリスクが大きくなる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 農家や普及員がP-dippingを実践する際に、その技術効果を高める適正な苗の選択に利用できる。
- 苗の質や根量は、葉齢だけではなく、育苗条件(播種量、温度、水管理、光強度、苗床の土壌特性や施肥管理など)や品種によっても影響を受ける。
具体的データ
- 分類
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技術
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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受託 » JST/JICA SATREPS
- 研究期間
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2017~2023年度
- 研究担当者
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辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 20588511アウンゾーウー ( 生産環境・畜産領域 )
Rakotoarisoa Njato Mickaël ( マダガスカル国立農村開発応用研究センター )
田代 亨 ( 名古屋大学 )
科研費研究者番号: 109315仲田 麻奈 ( 名古屋大学 )
ORCID ID0000-0003-1904-2596科研費研究者番号: 70623958江原 宏 ( 名古屋大学 )
ORCID ID0000-0001-5367-1332科研費研究者番号: 10232969 - ほか
- 発表論文等
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Rakotoarisoa et al. (2023) Crop and Environment 149: 126901.https://doi.org/10.1016/j.crope.2023. 10.002
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2023_B11_ja.pdf537.76 KB
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。