主要普及成果

移植苗のリン浸漬処理はイネの施肥効率を改善し低温ストレスを回避する

要約

少量のリン肥料を加えた泥を苗の根に付着させてからイネを移植するリン浸漬処理は、熱帯に広く分布するリン吸着能の高い土壌でも施肥効果が大きい。加えて、従来の施肥法に比べて生育日数を短縮するため、生育後半に気温が低下する栽培環境では、登熟不良の改善にも効果をもつ。

背景・ねらい

サブサハラアフリカでは、肥料や土壌からの養分供給量が少なく、イネの生産性は著しく低い。特に、作物の三大栄養素の一つであるリンは、土壌中の存在量が少ないだけではなく、土壌中に多く含まれる鉄やアルミニウムの酸化物がリンを強く吸着するため、施肥をしてもイネに吸収されにくい問題がある。本研究では、こうしたリン吸着能が高い土壌でも、少ない肥料で効率的にイネ収量を改善できる施肥技術の開発を目指し、リン肥料を加えた泥を苗の根に付着させてからイネを移植するリン浸漬処理の効果を検証する。

成果の内容・特徴

  1. 移植時に、重過リン酸石灰を加えた粘着性の高い泥を苗の根に付着させることで、高塩濃度で生じる肥料焼けを回避しながら、溶液に浸すよりも多くのリンを株元に局所施用することができる(図1)。
  2. リン浸漬処理により、イネの初期生育が無施肥条件に比べて大幅に改善される。浸漬リン濃度は1.8%~2.6%、浸漬時間は、2時間以内が望ましい(図2)。
  3. リン浸漬処理は、株下の水溶性リン濃度を局所的に高めることができ、全層施肥で効果がみられないリン吸着能の高い土壌でも、イネのリン吸収と初期生育を促進する(図3)。
  4. マダガスカルのリン欠乏圃場において、リン浸漬処理は、無施肥に比べて59~171%、表層施肥に比べて、同量もしくは半分のリン施肥量で9~35%、収量を増加させる(図4)。
  5. リン浸漬処理は、無施肥に比べて2週間程度、表層施肥に比べて1週間程度、イネの到穂日数を短縮するため、生育後半の気温低下を回避し、低温ストレスにともなう登熟不良を改善する(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. 農家の肥料投入力が乏しく、土壌のリン欠乏および生育後半の水不足や気温低下などが問題となる栽培環境において、イネの生産性を改善する実用的な技術として期待できる。
  2. リン浸漬処理技術の汎用性を高め、普及を促進するためには、労働コストを含めた農家の受容性に関わる調査と技術の改良が必要である。

具体的データ

  1. 図1 リン浸漬処理の手法

     

  2. 図2 リン浸漬処理の浸漬時間と浸漬リン濃度がイネの初期生育に及ぼす効果​​​​​​

    ​​​​​​棒グラフ上の異なるアルファベットは5%水準(Tukey HSD)で有意。 

     

  3. 図3 リン吸着能が異なる土壌でのリン浸漬処理の効果と土壌中の水溶性リン濃度の空間分布

    浸漬処理と全層施肥ともに40 mg pot-1のリンを施用。生育期間中の土壌溶液を採取し、土壌中の水溶性リン濃度の空間分布を推定。空間分布図内の数値は、ポット内の平均リン濃度。 

     

  4. 図4 リン浸漬処理の増収効果(左)と生育日数短縮による低温ストレスの回避効果(右)

    表層施肥の収量は、13 kg P ha-1と26 kg P ha-1の2水準の平均を示す。低温指数は、出穂15日前から7日後の期間に、日平均気温が22℃を下回った数値の積算値。登熟度は、登熟歩合と千粒重の積で計算される。棒グラフ上の異なるアルファベットは5%水準で有意。 

所属

国際農研 生産環境・畜産領域

分類

技術

プログラム名

農産物安定生産

予算区分

受託 » JST/JICA SATREPS » 肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究課題

肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上

研究期間

2020年度(2017~2021年度)

研究担当者

辻本 泰弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 20588511

Oo Aung Zaw ( 生産環境・畜産領域 )

川村 健介 ( 社会科学領域 )

科研費研究者番号: 90523746
見える化ID: 1747

西垣 智弘 ( 生産環境・畜産領域 )

科研費研究者番号: 80795013

Rakotoarisoa Njato Mickaël ( マダガスカル国立農村開発応用研究センター )

ほか
発表論文等

Oo AZ et al. (2020a) Agronomy 10(2):240
https://doi.org/10.3390/agronomy10020240

Oo AZ et al. (2020b) Scientific Reports 10:11919
https://doi.org/10.1038/s41598-020-68977-1

Rakotoarisoa N et al. (2020) Field Crops Research 254:107806
https://doi.org/10.1016/j.fcr.2020.107806

日本語PDF

2020_B02_A4_ja.pdf672.88 KB

2020_B02_A3_ja.pdf672.71 KB

English PDF

2020_B02_A4_en.pdf618.38 KB

2020_B02_A3_en.pdf487.51 KB

ポスターPDF

2020_B02_poster.pdf247.99 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。