ウイルスベクターを用いたキヌアの遺伝子機能解析法

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要約
有用な分子育種技術が開発されていないキヌアにおいて、ウイルスベクターを用いてキヌアの遺伝子発現を制御し、遺伝子機能を解析する技術を確立する。本手法はキヌアの新規遺伝子の同定や、分子育種素材の開発に利用できる。

背景・ねらい

南米アンデス原産のキヌアは、栄養バランスに優れているだけでなく、干ばつなどの過酷環境下でも栽培できることから、世界の食料・栄養問題の解決の切り札になり得る作物として期待されている。国際農研などの共同研究グループは、世界に先駆けてキヌアのゲノム配列情報を解読し(平成28年度国際農林水産業研究成果情報B03「キヌアの標準自殖系統とゲノム配列」)、キヌア系統の多様性を解明している(令和2年度国際農林水産業研究成果情報B08「キヌア自殖系統コレクションの多様性」)。これらの情報は、キヌアのゲノム情報を用いた育種研究に活用することができる。一方、キヌアでは遺伝子組換えなどの分子育種技術が開発されておらず、ゲノム配列より予測された遺伝子が実際にどのような機能を持っているかを調べる方法がなく、キヌアの分子育種を推進する上で大きな障壁となっている。そこで本研究では、ウイルスベクターを用いた方法によりキヌアの遺伝子発現を制御し、遺伝子機能を解析する技術を確立する。

 

成果の内容・特徴

  1. 植物ウイルスの一種であるリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)を、キヌア植物体に遺伝子を運ぶベクターとして用いる。解析対象のキヌア遺伝子の配列をALSVベクターに組込み、キヌアに感染させると、ウイルス感染部位では対象遺伝子の発現量が制御される(図1)。
  2. キヌアのカロテノイド生合成遺伝子CqPDS1の遺伝子配列断片を組込んだウイルスベクターを用いて、キヌアの中で本来発現しているCqPDS1遺伝子の発現を抑制できる(図2)。CqPDS1の遺伝子発現が抑制されたキヌアは、カロテノイドの蓄積量が減少することにより、葉で白化症状が誘導される(図3)。
  3. キヌアのゲノム情報を用いて同定したベタレイン色素生合成に関与する酵素遺伝子の発現を、本手法を用いて抑制すると、キヌア植物中のベタレイン色素の蓄積量が減少する(図4)。
  4. ALSVベクターを用いた本手法は、キヌアの遺伝的分類群(北部高地型、南部高地型および低地型)を代表する多くのキヌア系統で利用できる。 

 

成果の活用面・留意点

  1. 遺伝子組換えなどの技術が確立されていないキヌアにおいて、本手法はキヌア植物体内の遺伝子発現量を制御するための有効な手段となる。公開されているキヌアのゲノム情報と組み合わせることで、新規遺伝子の同定や遺伝子機能の解析を推進できる。
  2. 本手法は、キヌアの遺伝的分類群間あるいは系統間における遺伝子機能や表現型の比較といった解析に利用できる。
  3. 本手法は一時的な遺伝子発現量の変化を誘導するものであり、育種素材の開発を加速化していくためには、さらにゲノム編集技術などの開発が求められる。

 

具体的データ

  1. 図1 ウイルスベクターを用いたキヌア遺伝子の機能解析実験の模式図

     

  2. 図2 ウイルスベクターを用いたキヌアのカロテノイド生合成遺伝子CqPDS1の発現の抑制
    CqPDS1抑制1、抑制2は、ALSVベクターに組込んだCqPDS1遺伝子断片の配列が異なる。エラーバーは標準偏差、アルファベットの違い (a, b) は統計的有意差を表す (n = 3, p < 0.05)。

     

  3. 図3 CqPDS1遺伝子の発現抑制により生じる葉の白化症状
    図中では低地型キヌア(Iw系統)を用い、対照植物には野生型ALSVベクター接種個体を使用。 

     

  4. 図4 ウイルスベクター法を用いてキヌアの色素遺伝子の機能を解明
    ALSVベクターによりベタレイン色素生合成遺伝子CqDODA1およびCqCYP76AD1の発現を抑制したキヌアの植物体、および葉からのベタレイン色素抽出液を示す。図中ではベタレイン高蓄積キヌア(J056系統)を用い、対照植物には野生型ALSVベクター接種個体を使用。 

     

    図はOgata et al. (2021) より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

食料

農産物安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2016~2025年度

研究担当者

小賀田 拓也 ( 生物資源・利用領域 )

豊島 真実 ( 生物資源・利用領域 )

小田(山溝) 千尋 ( 生物資源・利用領域 )

小林 安文 ( 生物資源・利用領域 )

藤井 健一朗 ( 生物資源・利用領域 )

永利 友佳理 ( 生物資源・利用領域 )

見える化ID: 001763

藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 00446395
見える化ID: 001776

田中 孝二郎 ( 株式会社アクトリー )

田中 ( 株式会社アクトリー )

水越 裕治 ( 株式会社アクトリー )

安井 康夫 ( 京都大学 )

科研費研究者番号: 70293917

吉川 信幸 ( 岩手大学農学部 )

科研費研究者番号: 40191556

ほか
発表論文等

Ogata et al. (2021) Frontiers in Plant Science 12: 643499
https://doi.org/10.3389/fpls.2021.643499

日本語PDF

2021_B03_ja.pdf359.53 KB

English PDF

2021_B03_en.pdf382.46 KB

ポスターPDF

2021_B03_poster.pdf273.91 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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