キヌア自殖系統コレクションの多様性

国名
中南米
要約

136のキヌア自殖系統コレクションを作出し、それらの遺伝子型と表現型の連関解析から多様性を明らかにすることにより、自殖系統を基盤とした分子レベルでの育種の効率化、およびキヌアの高い環境適応性や優れた栄養特性の解明に活用できる。

背景・ねらい

キヌアは干ばつや塩害など高い環境適応性と必須アミノ酸やミネラルなどバランス良く豊富に含む優れた栄養特性を示す作物である。気候変動への対応や強固な食料安全保障の構築に、作物の多様性を保全することが求められており、キヌア遺伝資源から農業上有用な形質をもつ系統や遺伝子を活用した品種開発が期待されている。しかしながら、キヌアは一つの株に両性花と雌花をもち、他の個体との交雑しやすい特性と祖先種に由来する2種の類似したサブゲノムをもつため、ゲノム構造が複雑であり、高精度な遺伝子型解析の妨げとなっている。これまでに、分子レベルでの解析に適した遺伝的に均質なキヌアの標準自殖系統を開発し、キヌアのゲノム配列を世界に先駆けて解読した(平成28年度国際農林水産業研究成果情報「キヌアの標準自殖系統とゲノム配列」)。本研究では、キヌア136系統の網羅的自殖系統コレクションを作出し、それら系統の遺伝子型および表現型の関連性の全体像を把握することで、遺伝子レベルでの育種および研究を効率化することが期待できる。

成果の内容・特徴

  1. 作出した世界の主要なキヌア系統を網羅する136の自殖系統コレクションは、キヌアの分子育種や、キヌアの高い環境適応性や優れた栄養特性の解明に向けた研究の基盤素材となる。
  2. 136の自殖系統について、次世代シークエンサーを利用したシーケンシングによるジェノタイピング(Genotyping-by-Sequencing; GBS)解析で得られた一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)の遺伝子型データを用いた系統間の類縁度から、キヌア系統は南米アンデス地域での地理的な分布とほぼ対応する北部高地型、南部高地型、低地型の3種類の遺伝背景をもつ系統に分類できる(図1)。
  3. 136の自殖系統の遺伝子型データおよび耐塩性および作物生育に関する表現型データを可視化することにより、遺伝子型-表現型の関連性を俯瞰できる。収量、草丈、茎径、開花日数などから、低地型系統は日本を含めた温帯での栽培に適している。南部高地型および低地型系統は、海水相当の塩濃度条件での発芽率が高く、北部高地型系統よりも耐塩性である(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. 食料安全保障の観点から重要となるストレス耐性、収量安定性、高栄養価なキヌア品種の開発が加速する。
  2. GBS解析でのSNPsに基づいた同一の遺伝子型でも、異なる環境では異なる表現型を示すため、さまざまな環境要因に対するキヌア系統の表現型データを集積する必要がある。

具体的データ

  1. 図1 136のキヌア自殖系統に共有されているSNPsの遺伝子型データに基づく遺伝的集団構造解析図(A)と集団の地理的分布(B)

    (A)キヌア自殖系統の遺伝的背景を示す。縦軸の自殖系統名は、スペースの都合上、省略している。GBS解析で得られたSNPsに基づく遺伝子型を色分けし、割合の順に系統を並べて示す。いずれかの遺伝子型が80%以上を占めない遺伝的背景をもつ系統を中間型系統として定義している。(B)北部高地型、南部高地型、低地型の集団に分類される系統の分布域を示す。

  2. 図2 136のキヌア自殖系統の遺伝子型の分類に対応した表現型のヒートマップ

    ヒートマップ上部の番号は、0 mM NaClで24時間処理、300 mM NaClで4日間処理、600 mM NaClで14日間処理後の胚軸根長(①、②、③)、2014-15年(つくば)、2015-16年(つくば)、2016年(つくば)、 2016-17年(鳥取)の種子1000粒の重さ(④、⑤、⑥、⑦)、草丈(⑧)、茎の直径(⑨)、葉の乾燥重量(⑩)、1個体あたりの種子重量(⑪)、開花までの日数(⑫)を示す。表現型の数値は、高い値ほど橙色、低い値ほど青色となるように示す。図はMizuno N et al. (2020) を改変(Copyright: Oxford University Press)。 

Affiliation

国際農研 生物資源・利用領域

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

農産物安定生産

予算区分

受託 » (株)アクトリー

受託 » JST/JICA SATREPS » 高栄養価作物キヌアのレジリエンス強化生産技術の開発と普及

交付金 » 不良環境耐性作物開発

研究期間

2020年度(2016~2020年度)

研究担当者

小林 安文 ( 生物資源・利用領域 )

藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )

科研費研究者番号: 00446395
見える化ID: 001776

水野 信之 ( 京都大学 )

藤田 美紀 ( 理化学研究所 )

福田 将太 ( 鳥取大学 )

田中 孝二郎 ( 株式会社アクトリー )

田中 ( 株式会社アクトリー )

水越 裕治 ( 株式会社アクトリー )

西原 英治 ( 鳥取大学 )

安井 康夫 ( 京都大学 )

科研費研究者番号: 70293917

ほか
発表論文等

Mizuno N et al. (2020) DNA Research, 27(4)
https://doi.org/10.1093/dnares/dsaa022

日本語PDF

2020_B08_A4_ja.pdf866.67 KB

2020_B08_A3_ja.pdf866.14 KB

English PDF

2020_B08_A4_en.pdf1.02 MB

2020_B08_A3_en.pdf1 MB

ポスターPDF

2020_B08_poster.pdf521.98 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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