キヌアの標準自殖系統とゲノム配列
分子レベルでの解析に適した遺伝的に均質なキヌアの標準自殖系統を開発し、キヌアのゲノム(生物の設計図)配列を世界に先駆けて解読した。これらの成果は、優れた環境適応性と栄養特性をもつ作物の開発に貢献するものと期待される。
背景・ねらい
キヌアは南米アンデス地方原産の作物で、干ばつなどの不良環境に対する適応能力が高いだけでなく、きわめて高い栄養価と優れた栄養バランスを持つため、食料安全保障上の重要性や消費者層の拡大が注目されつつある。しかしながら、キヌアは、一つの株に両性花と雌花を持っているため雑種になりやすい上にゲノム構造が複雑であることから、遺伝子レベルの解析が進んでおらず、キヌアの環境ストレス耐性や多収性、栄養特性等を利用した作物改良は進展していない。本研究では、分子解析に好適な標準自殖系統(キヌアの標準的な特性を持つ純系の系統)を確立し、次世代シーケンス技術を適切に組合せることにより、キヌアのゲノム概要配列の解読を目指す。本成果により、キヌアの環境ストレス耐性や多収性、栄養特性等を利用した作物改良が加速することが期待される。
成果の内容・特徴
- キヌアは交雑性が高いが、開発した標準自殖系統Kdは、京都大学において20年以上他のキヌア品種と交雑できない環境下で維持された系統をJIRCASにおいて耐塩性やウイルス感染性を確認した上で、交雑を防ぎながら自殖させた系統である(図1)。
- キヌア自殖系統Kdから全DNAを抽出し、異なった性能をもつ2種類の次世代シークエンサーを組み合わせて解読された1.1 Gb(11億塩基対)の配列は、キヌアの推定ゲノムサイズ1.5 Gb(15億塩基対)の73%に相当する。
- 解読されたキヌアのゲノム配列を使い、ゲノム配列が既知の作物や植物種との比較ゲノム解析を行った結果、キヌア、ヒユ科近縁種(テンサイ、ホウレンソウ、アマランサス)、およびシロイヌナズナの5種類の植物すべてに共通する遺伝子グループは3,342、キヌアのみにみられる遺伝子グループは13,320である(図2)。
- 得られたゲノム配列に基づいてキヌアのゲノム配列データベースQuinoa Genome DataBase (QGDB)を構築し、かずさDNA研究所より公開している(http://quinoa.kazusa.or.jp/)。
- QGDBを用いて、干ばつや塩害時に重要な役割を果たすと考えられる遺伝子や、ウイルス感染防御に関わる遺伝子の存在を明らかにできる。
成果の活用面・留意点
- キヌアのゲノム概要配列の解読とデータベースの公開により、有用な遺伝子の単離やその機能解析および品種改良のためのDNAマーカーの開発等が迅速かつ効率的に行える。
- キヌアの標準自殖系統の確立によって、異質四倍体のキヌアのもつ耐塩性などの優れた環境適応性や栄養特性を支える分子メカニズムの解明が促進され、キヌアのみならず、イネやコムギなどの作物品種の改良への貢献も期待される。
具体的データ
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図1 ゲノム解読を行ったキヌア標準自殖系統(Kd)のさまざまな生育段階の写真
(A) 直径2mm程度のキヌア種子。(B,C,D) 播種後6週間目、8週間目および16週間目のキヌア植物体。(E) 収穫期(播種後17週間目)のキヌアの穂 -
図2 キヌアの遺伝子と近縁種等の遺伝子の比較
キヌアの遺伝子とヒユ科近縁種(テンサイ、ホウレンソウおよびアマランサス)およびシロイヌナズナの遺伝子との比較。数字は類似の遺伝子をまとめたグループの数を示す。また括弧内の数字はそのグループに属する遺伝子の数を示す。
- Affiliation
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国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 不良環境耐性作物開発
受託 » (株)アクトリー/石川県立大学・不良環境農業
- 研究期間
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2016年度(2015~2016年度)
- 研究担当者
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藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )
安井 康夫 ( 京都大学 )
科研費研究者番号: 70293917平川 英樹 ( かずさDNA研究所 )
科研費研究者番号: 80372746森 正之 ( 石川県立大学 )
科研費研究者番号: 00320911田中 努 ( 株式会社アクトリー )
- ほか
- 発表論文等
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Yasui Y et al. (2016) DNA Research, 23(6): 535-546 [Editor’s Choice]
Quinoa Genome DataBase (QGDB): http://quinoa.kazusa.or.jp
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