オニテナガエビの卵黄タンパク質ビテリンのアミノ酸配列決定および合成部位の解明

要約

養殖対象種であるオニテナガエビを用いて成熟卵黄タンパク質の主要な成分であるビテリンの精製、構造解析および遺伝子のクローニングを行い、肝膵臓で発現されていることを明らかにした。

背景・ねらい

   エビ類は市場価値が高いことからアジア地域における養殖対象種として期待されている。しかし、種苗生産のための親エビを漁獲に頼らざるを得ないこと、親エビの人工的な養成が難しいことなどから種苗の供給が不安定である。そこで、安定したエビ類の種苗生産技術を開発することを目的にオニテナガエビを用いて成熟・産卵のメカニズムの解明を試みた。そして卵黄形成の重要な鍵となっているビテリンについて精製、構造解析および遺伝子のクローニングを行い、その産生組織を同定した。

成果の内容・特徴

  1. 卵巣抽出物から逆相HPLCで分離された4種の主要な分子(図1、Macr-A、B、C、およびD)は、ウエスタンブロッティングにおいて抗ビテ抗体と陽性反応を示したので、すべてオニテナガエビのビテリンと判明した。
  2. 精製した4種のビテリンのN末端アミノ酸配列(33残基以上)を、図2にまた、lysyl endopeptidaseの消化による内部配列情報を図3に示しす。
  3. ビテリンの産生組織と考えられている肝膵臓から全RNAを抽出し、逆転写反応を行うことにより、cDNAを合成した。次に、このcDNAを鋳型にして、(2)で得た配列情報を基に縮重プライマーを設計し、PCRを行う。これにより4種のビテリンをコードするcDNA塩基配列を明らかにした。
  4. 得られたcDNA 断片をプローブにして、Northern hybridization法によりビテリンmRNA発現を調べた結果、これらの4種のビテリンのmRNAはそれぞれ7 Kbであり、卵黄形成期に肝膵臓のみに発現していた(図4)。
  5. 本研究で得られた卵黄タンパクビテリンをコードするcDNAプローブを用いて、卵黄形成過程におけるmRNAの発現動態を調べることができる。

成果の活用面・留意点

   卵黄形成過程におけるmRNAの発現動態を簡便に調べることが可能となり、人為的な成熟誘起法の開発、成熟に及ぼす内部神経ホルモンや外部の環境因子の解明、成熟を制御するホルモンの探索などに利用することができる。

具体的データ

  1.  

    図1 逆相HPLCによるビテリンの精製
    図1 逆相HPLCによるビテリンの精製
  2.  

    図2 N末端アミノ酸配列分析により同定されたアミノ酸配列
    図2 N末端アミノ酸配列分析により同定されたアミノ酸配列
  3.  

    図3 ビテリンをLysyl endopeptidaseで消化して得たペプチド断片のアミノ酸配列
    図3 ビテリンをLysyl endopeptidaseで消化して得たペプチド断片のアミノ酸配列
  4.  

    図4 Northern blot分析による様々な組織におけるビテリンmRNAの発現
    図4 Northern blot分析による様々な組織におけるビテリンmRNAの発現
Affiliation

国際農研 水産部

分類

研究

予算区分
経常 STA研究費
研究課題

エビ類の成熟、産卵のメカニズムの解明と制御

研究期間

平成11~12年

研究担当者

WILDER Marcy Nicole ( 水産部 )

衛軍 ( 水産部 )

ほか
発表論文等

Wei-Jun Yang, Tsuyoshi Ohira, Naoaki Tsutsui, Thanumalayaperumal Subramoniam, Do Thi Thanh Huong, Katsumi Aida and Marcy N. Wilder (2000). Determination of amino acid sequence and site of mRNA expression of four vitellins in the giant freshwater prawn, Macrobrachium rosenbergii. Journal of Experimental Zoology (in press).

Naoaki Tsutsui, Ichiro Kawazoe, Tsuyoshi Ohira, Safia Jasmani, Wei-Jun Yang, Marcy N. Wilder and Katsumi Aida (2000). Molecular characterization of a cDNA encoding vitellogenin and its expression in the hepatopancreas and ovary during vitellogenesis in the kuruma prawn, Penaeus japonicus. Zoological Science (in press).

日本語PDF

1999_12_A3_ja.pdf813.68 KB

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