キチン分解好熱嫌気性細菌Capillibacterium thermochitinicolaの発見
石垣島の堆肥から分離した新属新種のCapillibacterium thermochitinicolaは、結晶性キチンを分解できることが確認された、はじめてのキチン分解好熱嫌気性細菌である。キチンを含むエビ殻やカニ殻等の食品加工廃棄物を用いた効率的な微生物糖化への利用が期待できる。
背景・ねらい
キチンはエビ、カニをはじめ、昆虫や貝、キノコ等、多くの生物に含まれている多糖類の一種で、地球上でセルロースに次ぐ賦存量を持つ豊富な天然生物資源である。繊維素材や土壌改良材等、バイオマテリアルとして多くの用途が期待されるが、難溶性であるため、産業利用は限られており、水産加工工場からはエビ殻やカニ殻等、キチンを含むバイオマスが大量に廃棄されている。キチン分解酵素を持つ微生物は多数、存在するが、好熱嫌気性環境下でキチンを分解・資化できる細菌は見つかっていない。そこで、微生物糖化によるキチン系バイオマスの有効利用を図るため、高温環境下で効率的にキチン分解する好熱嫌気性細菌を探索し、その新規性や有用性を明らかにする。成果の内容・特徴
- 結晶性キチンを炭素源とする培地を用いて、石垣島の堆肥から嫌気環境下60℃にてキチン分解する微生物をスクリーニングし、新属新種のキチン分解好熱嫌気性細菌Capillibacterium thermochitinicola UUS1-1の分離に成功した。本菌は分類学上、グラム陽性菌フィルミクテス門の難培養細菌OPB54クラスターに位置づけられる。OPB54クラスターにおいて培養可能な細菌類としては、これまで知られているHydrogenispora ethanolicaに継ぐ発見である(図1)。
- C. thermochitinicola UUS1-1は、2種類のキチン分解酵素を菌体外に生産し(図2)、結晶性キチンを分解及び資化できることが確認されたはじめての好熱嫌気性細菌である(図3)。
- C. thermochitinicola UUS1-1は少なくとも6種類のキチン分解酵素とキチン利用に必要な代謝経路を有しており、キチンから直接、水素を生産できるほか、デンプン、ガラクタン、β-グルカンを分解できる。
- C. thermochitinicola UUS1-1は、基準株として理研バイオリソースセンター(JCM 33882T)とドイツ微生物細胞培養コレクションセンター(DSM 111537T)に寄託されており、分譲が可能である。
成果の活用面・留意点
- 微生物糖化技術で用いている好熱嫌気性セルロース分解細菌と同じく、60℃にて生育及び結晶性キチンを効率的に分解できるため、キチン質を含む食品加工廃棄物を用いた微生物糖化技術に組み入れることが可能である。
- C. thermochitinicola UUS1-1はキトサンを分解することが出来ない。キチンの化学処理から得られるキトサンは生分解性フィルムや抗菌性をもつ機能性素材であるが、本菌を作用させることで、残存するキチン除去などキトサンの生物的精製処理に利用できる。
具体的データ
-
a;UUS1-1の光学顕微鏡写真(写真下部の黒横棒スケールは50 µm)
b;UUS1-1の走査電子顕微鏡写真(写真下部の白横棒スケールは1.0 µm)
c;透過電子顕微鏡写真(写真下部の黒横棒スケールは0.4 µm) -
a; 分離菌UUS1-1の菌体外酵素のタンパク質SDS-PAGE画像.
b; 分離菌UUS1-1の菌体外酵素のキチン分解活性染色画像.▲分子量にキチン分解活性が認められる. M;分子量マーカー -
1%(w/v)結晶性キチンを含む嫌気性培地におけるUUS1-1によるキチンの残存率を示す。
- Affiliation
-
国際農研 生物資源・利用領域
- 分類
-
研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
-
交付金 » アジアバイオマス
- 研究期間
-
2020年度(2017~2020年度)
- 研究担当者
-
小杉 昭彦 ( 生物資源・利用領域 )
鵜家 綾香 ( 生物資源・利用領域 )
ORCID ID0000-0001-5077-8353Baramee Sirilak ( 国際招へい研究員 )
ORCID ID0000-0001-5122-2971Ungkulpasvich Umbhorn ( 筑波大学 )
- ほか
- 発表論文等
-
Ungkulpasvich U et al. (2020) Data in Briefhttps://doi.org/10.1016/j.dib.2020.106528Ungkulpasvich U et al. (2020) Enzyme and Microbial Technologyhttps://doi.org/10.1016/j.enzmictec.2020.109740
- 日本語PDF
-
2020_C03_A4_ja.pdf1.81 MB
2020_C03_A3_ja.pdf1.81 MB
- English PDF
-
2020_C03_A4_en.pdf1.37 MB
2020_C03_A3_en.pdf1.27 MB
- ポスターPDF
-
2020_C03_poster.pdf237.72 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。