国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

新規アルカリ好熱嫌気性菌Herbivorax saccincola A7はバイオマス分解能に優れる

要約

リグノセルロース系バイオマスを原料とする堆肥から分離した新種の好熱嫌気性細菌H. saccincola A7はアルカリ環境を好み、セルロースとヘミセルロースを分解できる。本菌は、近縁菌には無いキシロースやキシロオリゴ糖の代謝酵素を持つことから、リグノセルロース系バイオマスの効率分解に適している。

背景・ねらい

リグノセルロース系バイオマスを燃料や化成品原料に変換するには、環境負荷の小さい前処理技術とともに、高効率で低コストな生物学的分解技術の開発が求められる。これまで知られている好熱嫌気性セルロース分解菌Clostridium thermocellumC. clariflavumなどは、バイオマスに含まれるセルロースを高効率分解し、利用できるが、バイオマスにセルロースと同程度含まれるヘミセルロースは利用することができない。そこで、セルロースとヘミセルロースを効率的に分解し、利用できる新たな微生物を探索・分離し、特性や作用機序に基づいてバイオマス分解における有用性を示すことで、ヘミセルロースの主成分であるキシランの含有量が高い難分解性のバイオマスの高効率分解プロセスの構築に利用する。

成果の内容・特徴

  1. サトウキビバガスや稲わらなどを原料とする石垣島の堆肥から好熱嫌気性細菌を分離し、16S rRNA系統樹解析によってHerbivorax saccincola A7(以下、A7と表記)と同定した(図1A)。A7は既知のセルロース高分解菌であるC. thermocellumC. clariflavumと近縁である(図1B)。
  2. A7はアルカリ性(pH9.0)の至適生育pHを持ち(表1)、発酵生産物の有機酸がpHを低下させる影響を受けにくく、バイオマス分解能を長期間維持できる。また高温、アルカリ環境のため雑菌が繁殖しにくい条件でバイオマス分解が可能である。
  3. A7はキシランを炭素源として生育することができる(表1)。
  4. A7は3.76 Mbのゲノムサイズで3,346個のタンパク質をコードする遺伝子を持つ(表1)。
  5. A7と近縁のセルロース分解好熱性嫌気性細菌との比較ゲノム解析の結果、セルロース分解に重要なセルロソーム(セルラーゼ/ヘミセルラーゼの酵素複合体)構造や糖質分解酵素の数や種類に大きな相違は認められなかったが、A7は糖質分解酵素に対するキシラン分解酵素の比率が他の近縁種に比べて高い(表1)。
  6. A7は他の近縁種には認められないキシランの分解物であるキシロースやキシロオリゴ糖の輸送タンパク質やキシロース代謝経路を保有しており(図2)、キシランを多く含むバイオマス分解に適した有用微生物と考えられる。

成果の活用面・留意点

  1. A7は強いキシラン分解・資化能を有していることから、キシラン含有が高い空果房やパーム幹などパーム油製造で排出される農作物残渣やトウモロコシ茎葉の分解に有用である(特許出願番号PCT/JP2017/021784)。
  2. A7はドイツ細胞バンク(DSMZ)及び理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)から入手できる。

具体的データ

  1. 図1 H. saccincola A7の(A)透過型電子顕微鏡写真と(B)系統樹
    図1 H. saccincola A7の(A)透過型電子顕微鏡写真と(B)系統樹
    写真の右下黒線はスケールを示す(200 nm)。
    系統樹の左上黒線は相違塩基の比率を示す(0.05)。

  2. 表1 H. saccincola A7と近縁菌種における生理学的特徴と比較ゲノム解析

    特徴
    H. saccincola A7
    C. clariflavum DSM 19732
    C. thermocellum ATCC27405
    至適生育pH
    9
    7.5
    7
    キシラン資化能
    あり
    なし
    なし
    ゲノムサイズ[Mb]
    3.76
    4.9
    3.84
    遺伝子数*1[個]
    3,346
    3,906
    3,204
    糖質分解酵素*2[個]
    38
    47
    42
    キシラン分解酵素[個]
    8(21%)*3
    6(12%)*3
    1(2%)*3
    *1 タンパク質の情報をもつ遺伝子の総数を示している。
    *2 セルロース、キシラン、マンナン、キシログルカンなどの糖質を分解する酵素の保有数。
    *3 括弧内の百分率は糖質分解酵素の中でのキシラン分解酵素の比率を示している。
  3. 図2 H. saccincola A7の持つユニークなキシロオリゴ糖とキシロース代謝経路
    図2 H. saccincola A7の持つユニークなキシロオリゴ糖とキシロース代謝経路
    橙色はA7のみに保有されているもの、青色は近縁菌種にも共通して存在する代謝経路を示す。

所属

国際農研生物資源・利用領域

分類

研究

研究プロジェクト

東南アジア未利用バイオマス資源からの糖質生産技術とその高度利用技術の開発(アジアバイオマス)

プログラム名

高付加価値化

予算区分

交付金アジアバイオマス

研究期間

2018年度(2016~2020年度)

研究担当者
  • 藍川 晋平 (生物資源・利用領域)
  • 小杉 昭彦 (生物資源・利用領域)
  • 発表論文等

    Aikawa S et al. (2018) Systematic and Applied Microbiology, 41(4):261-269 DOI: 10.1016/j.syapm.2018.01.010

    小杉ら(2017)特許出願番号PCT/JP2017/021784

    塩基配列データベース、国立生物工学情報センター(NCBI)、PRJNA384108 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/bioproject/?term=PRJNA384108

    日本語PDF
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