効率的な遺伝解析及び特性評価を可能にするギニアヤム多様性研究材料の選定

要約

西アフリカで最も重要な作物の一つであるギニアヤムについて、遺伝解析及び特性評価を容易にし、効率的な育種及び栽培研究を可能とする、遺伝的多様性を保持した多様性研究材料セット102系統を選定した。

背景・ねらい

アフリカではヤムが主食として広く栽培され(図1)、「ヤムベルト」と呼ばれる西アフリカのギニア湾岸一帯で、世界の生産量の約95%(5,400万トン)が生産されている。特にギニアヤム(Dioscorea rotundata)は、この地域の食生活に欠かすことのできない重要な主食作物かつ農家の主要な換金作物である。ギニアヤムは、1)長い生育期間、2)長大な植物体サイズ、3)地下部が利用対象、等の理由から多数の遺伝資源を用いた栽培試験や調査が難しく、生産性や品質向上に向けた育種及び栽培研究が進んでいない。本研究では、ギニアヤム遺伝資源の遺伝的多様性を十分に包含し、かつ効率的な遺伝解析及び特性評価に適した集団サイズの多様性研究材料を選定する。

成果の内容・特徴

  1. 国際熱帯農業研究所(IITA)のギニアヤム遺伝資源のコアコレクション447系統から、16個の単純反復配列(Simple Sequence Repeat: SSR)マーカー(平成27年度国際農林水産業研究成果情報B05「ヤム遺伝資源多様性解析のためのSSRマーカーの開発」)による多型解析により、元の集団(447系統)に含まれる変異(対立遺伝子)の9割以上を保持するように102系統を選抜し、ギニアヤム多様性研究材料セット(D. rotundara Diversity Research Set: DrDRS)を作成した。
  2. DrDRSは元集団のSSR多型の変異を広くカバーし(図2)、ギニアヤム遺伝資源の持つ遺伝的多様性を十分に包含している(表1)。
  3. 21個の形態形質に関する、変異の多様性を示す指標(Shannon指数)において、DrDRSは元集団と同等の変異を有する(DrDRS:1.138、元集団:1.114)。
  4. 基礎的な農業特性について、DrDRSでは、IITA育種プログラムが有用素材として使用している育種系統および在来品種10系統を超越する多様性が確認でき、新たな育種素材としての利用が可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  1. ギニアヤム遺伝資源の遺伝解析や特性評価への利用を通じて、ギニアヤムの遺伝及び栽培研究の効率化が期待できる。
  2. ヤムゲノム情報(平成29年度国際農林水産業研究成果情報B02「ギニアヤムのゲノム情報の解読および性判別マーカーの開発」)と組み合わせることで、形質関連遺伝子の特定やマーカー開発への寄与が期待できる。
  3. 447系統の多様性解析で得られた多型データは、ヤム品種識別技術(令和元年度国際農林水産業研究成果情報B03「SSRマーカーを利⽤したホワイトギニアヤム品種識別技術パッケージ」)の遺伝子型のデータベースに収録され、各ギニアヤム生産国の品種識別情報や地域の遺伝資源の多様性評価の基準系統として貢献できる。
  4. 選定した102系統はIITA遺伝資源センターから遺伝資源として配布が可能である。これらの系統のクローンは現在ウイルスフリー化して提供する体制を進めている。

具体的データ

  1. 図1 西アフリカにおけるヤムの栽培(左)と収穫したイモ(右)

     

  2. 表1 元集団とDrDRS系統の多様性指標の比較(16マーカー分のまとめ)

     

      Na Ho He PIC
    元集団 (n=447) 96 0.373 0.583 0.549
    DrDRS (n=102) 94 0.383 0.563 0.529

     Na:対立遺伝子数、Ho:ヘテロ接合度、He:ヘテロ接合度(期待値)、PIC:多型情報含有値

     

  3. 図2 SSR多型に基づく主座標分析における元集団とDrDRS系統の分布

     DrDRS系統()は元集団()内に広く分布する。

     

  4. 図3 DrDRS系統の基礎農業形質における変異​​​​​​

    A:生育日数(植付から収穫)、B: 個体あたりイモ数、C:個体あたりイモ収量(g)、D:一イモ重(g)
    ▼はIITA育種プログラムが有用素材として使用している育種系統及び在来品種10系統の分布 

Affiliation

国際農研 熱帯・島嶼研究拠点

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

農産物安定生産

予算区分

交付金 » アフリカ食料

研究期間

2020年度(2011~2020年度)

研究担当者

山中 愼介 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001785

村中 ( 生産環境・畜産領域 )

高木 洋子 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

Pachakkil Babil ( 東京農業大学 )

Girma Gezahegn ( 国際熱帯農業研究所 )

松本 ( 国際熱帯農業研究所 )

Asiedu Robert ( 国際熱帯農業研究所 )

Tamiru Muluneh ( 岩手生物工学研究センター )

寺内 良平 ( 岩手生物工学研究センター )

ほか
発表論文等

Pachakkil B &Yamanaka S et al. (2021) Crop Sci.
https://doi.org/10.1002/csc2.20431

日本語PDF

2020_B03_A4_ja.pdf462.03 KB

2020_B03_A3_ja.pdf461.51 KB

English PDF

2020_B03_A4_en.pdf539.06 KB

2020_B03_A3_en.pdf541.04 KB

ポスターPDF

2020_B03_poster.pdf314.83 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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