国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

ベトナム北部におけるイネウンカ類に対する殺⾍剤の使⽤状況と散布法の評価

要約

ベトナム北部の稲作農家は様々な種類の殺虫成分を使用している。また成分使用回数が農家水田内のウンカ密度低下に寄与する程度は低い。殺虫剤散布時の薬液の付着程度がウンカの生息部位で低いことが、低効果の一つの要因と考えられる。

背景・ねらい

トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)およびセジロウンカ(Sogatella furcifera)は、ベトナム北中部を飛来源とし、毎年中国南部、日本へと飛来するイネの重要害虫である。ウンカの防除には広く殺虫剤が使用されるが、それらの殺虫成分に対してウンカが抵抗性を発達させることにより、その防除を難しくする。ウンカの常発地域における不適切な殺虫剤の使用が抵抗性の発達に大きく影響していると考えられることから、ベトナムの水田における殺虫剤の使用状況およびその防除効果について把握する必要がある。そこで、将来的なベトナムにおけるウンカの殺虫剤抵抗性管理を目指し、ベトナム北部の農家水田における殺虫剤の使用状況とウンカの密度に対する影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  1. ベトナム北部(ナムディン省ギアフン県およびヴィンフック省ラップタック県)の2村の水田において使用されている殺虫成分と使用回数は地域や作付時期により異なり、10グループ21成分の多様な殺虫成分が使用されている(表1)。
  2. 農家水田において殺虫成分使用回数が出穂期のウンカ両種の密度低下に寄与する程度は低い(表2)。
  3. 背負式散布機を用いた農家の慣行的な散布方法によるイネ植物体に対する薬液の付着程度は、植物体上位(60 cm)で高いが、セジロウンカが生息する植物体中位(40 cm)で中程度、トビイロウンカが生息する植物体下位(15 cm)で著しく低い(図1)。
  4. 薬液の付着程度が高いほど、トビイロウンカ雌成虫の死亡率が向上する(図2)。
  5. 以上より、ベトナム北部の農家水田における現行の殺虫剤使用がウンカ両種の密度低下に十分に寄与していない要因の一つとして、生息部位への殺虫剤の付着量が少ないことが考えられる。

成果の活用面・留意点

  1. 浸透移行性殺虫剤では一般的に植物体上位に付着した薬液が下位に移行することは少ないため、効果的にウンカを防除するためには、植物体下位に薬液が到達するような散布方法の改善が必要である。
  2. ウンカの密度低下に対する殺虫成分使用回数の寄与の程度が低いもう一つの要因として、殺虫剤抵抗性の発達も考えられるため、ベトナムで採集したウンカ個体群を用いて殺虫剤抵抗性の発達程度を定量化し、その推移をモニタリングする必要がある。

具体的データ

  1. 表1 聞き取り調査によりベトナム北部の2村で使用が確認された殺虫成分

    グループ 有効成分 ナムディン省 ヴィンフック省
    冬作 (38) 夏作 (38) 冬作 (37) 夏作 (26)
      水田当たり平均殺虫成分使用回数 4.48 8.83 0.29 1.88
    カーバメート系 フェノブカルブ - - -
    有機リン系 クロルピリホス - -
      クロルピリホスエチル -
      キナルホス - -
    フェニルピラゾール系 フィプロニル
    ピレスロイド系 シペルメトリン -
      ペルメトリン - -
      ラムダシハロトリン - - -
      アルファシペルメトリン - -
    ネオニコチノイド系 イミダクロプリド - -
      ニテンピラム - - -
      アセタミプリド - - -
      ジノテフラン - - -
      チアメトキサム - -
    アベルメクチン系 アバメクチン -
      エマメクチン安息香酸塩 -
    ピリジン アゾメチン誘導体 ピメトロジン -
    ネライストキシン類縁体 チオスルタップナトリウム塩 - - -
    ブプロフェジン ブプロフェジン - -
    オキサジアジン インドキサカルブ - -
    ジアミド系 クロラントラリニプロール -

    成分は殺虫剤抵抗性対策委員会(IRAC)の作用機構分類に従って分類。括弧内はベトナム北部の2村で調査した農家数。

  2. 表2 トビイロウンカとセジロウンカの密度に影響を与える要因の推定

    説明変数 自由度 推定値 χ2 p
    地域 1 0.63 4296.03 <0.001
    作付時期 1 -0.31 662.63 <0.001
    殺虫剤使用成分数 1 0.02 22.47 <0.001
    クモ個体数 1 0.02 4534.75 <0.001
    カスミカメ個体数 1 0.06 6285.56 <0.001

    聞き取り調査を行った農家の所有水田の出穂期に払落し調査を実施。ウンカ両種の個体数を目的変数、地域(ナムディン省、ヴィンフック省)、作付時期(冬作、夏作)、播種から調査実施日までの殺虫成分使用回数、天敵であるクモとカスミカメの個体数を説明変数とし一般化線形モデルで解析した。推定値の絶対値が大きいほど目的変数に与える影響が相対的に大きい。

  3. 図1 背負式散布機を用いた殺虫剤散布によるイネ植物体への薬液の付着程度
    図1 背負式散布機を用いた殺虫剤散布によるイネ植物体への薬液の付着程度
    草丈85 cmのイネの上位、中位、下位に感水紙(水分の付着により黄色から青色へ変化)を貼付けて付着程度を評価。箱は四分位範囲、箱の上下のバーは箱から四分位範囲の1.5倍以内にある最大あるいは最小値までの範囲。点は外れ値。

  4. 図2 薬液の付着程度を変えたイネにおける24時間後のトビイロウンカ雌成虫の死亡率
    図2 薬液の付着程度を変えたイネにおける24時間後のトビイロウンカ雌成虫の死亡率
    ニテンピラム、ピメトロジン、イミダクロプリドの混合剤を使用。

所属

国際農研生産環境・畜産領域

分類

研究

国名
  • ベトナム
  • 研究プロジェクト

    国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発(病害虫防除)

    プログラム名

    農産物安定生産

    予算区分

    交付金病害虫防除

    研究期間

    2019年度(2016~2020年度)

    研究担当者
  • 松川 みずき (生産環境・畜産領域)
  • 小堀 陽一 (生産環境・畜産領域)
  • Nguyen Huy Chung (ベトナム植物保護研究所)
  • 発表論文等

    Matsukawa-Nakata et al. (2019) Journal of Pesticide Sciences, 44(2):129-135 https://doi.org/10.1584/jpestics.D18-080

    Matsukawa-Nakata et al. (2019) Applied Entomology and Zoology, 54(4):451-457 https://doi.org/10.1007/s13355-019-00641-1

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