東アジアモンスーン地域におけるイネウンカの移動実態の解明

要約

トビイロウンカセジロウンカは、南西モンスーンの季節的推移と稲作時期の地理的勾配に依存した二段階移動によって、東アジアの潅漑水田地帯をベトナム北部の冬春稲から、華南の二期作早稲を経て、わが国の一期作水稲へ飛来する。

背景・ねらい

   熱帯アジアに原産するトビイロウンカとセジロウンカは、風系に依存した広域移動性によって、越冬できない亜熱帯・温帯アジアにまで夏季の分布域を拡げ、モンスーンアジアの稲作を脅かす国際的な害虫である。とくに、飛来侵入するウンカが発生源となる温帯アジアの水田生態系では、水稲の作型、品種、管理技術の変遷とも相まって、しばしば突発的な大発生による甚大な被害を被ってきた。中国では高収量ハイブリッド水稲の普及がウンカを多発させ、殺虫剤の使用量の増加がウンカの殺虫剤抵抗性を発達させている。東アジアの稲作農業の持続的発展を維持する上で、ウンカの広域移動実態の解明に基づく発生予察の高度情報化が不可欠であり、そのための国際共同研究が必要であった。

成果の内容・特徴

   日本、中国、ベトナムの予察資料から特定したウンカの移動時期における、ウンカを移送していると考えられる850hPa面の気流の流跡線を、本目的のために開発したコンピュータソフトで解析し、わが国へ飛来するウンカの移動過程を解明した。飛来源の推定には、ウンカのバイオタイプ形質にも着目した。

  1. 東アジアを移動するウンカは、ベトナム北部の潅漑水稲二期作地帯に起源する。
  2. ベトナム北部から移出するウンカは、華南を経由する二段階の長距離移動によって、我が国へ飛来する(図1)。この二段階移動は、ウンカを移送するモンスーンの北遷と、イネの栽培時期の地理的勾配に依存し成立している。
  3. 第一段階の移動は、4~5月に華南に停滞する前線南面の風系によって、ベトナム北部の冬春稲(1~2月移植)で、越冬・増殖し、4~5月に移出するウンカが、華南の早稲(4月移植)に遷移する過程である(図2)。
  4. 第二段階の移動は、華南の早稲で1~2世代増殖し、6~7月に移出するウンカが、華中・日本付近へ北上した梅雨前線面の低気圧システムに伴う風系によって、華中とわが国の一期作水稲(5~6月移植)に遷移する過程である(図3)。
  5. 華中東部の顕著な移動波は、梅雨前線上の低気圧システムの発達に同調し、その移動波は低気圧システムの東シナ海東進によって、わが国にも波及する。

成果の活用面・留意点

   イネウンカが、ベトナム北部から極東アジアに移動する最も基本的なパターンと、移動をもたらす基本的な気象システムを解明しており、イネウンカの国際的な発生予察の基礎的知見となる。

具体的データ

  1. 図1 ベトナム北部の冬春稲から華南の早稲をへて、我が国の一期作水稲に飛来するウンカの二段階移動の模式図
  2. 図2 ウンカがベトナム北部を移出した1991年4~5月に、華南東部を起点とする850hPa面の気流の48時間後退流跡線
  3. 図3 ウンカが華南から西日本に飛来した1991年7月初旬に、熊本を起点とする850hPa面の気流の48時間後退流跡線
Affiliation

国際農研 生産利用部

中国水稲研究所

予算区分
経常
研究課題

東アジアモンスーン地域における広域移動性水稲害虫の移動実態の解明

研究期間

平成9年度(平成7~9年)

研究担当者

寒川 一成 ( 生産利用部 )

高橋 明彦 ( 生産利用部 )

ほか
発表論文等

日中合同ワークショップ “Migration and Management of Insect Pests of Rice in Monsoon Asia"(平成9年11月27~29日,中国水稲研究所)で発表.

日本語PDF

1997_01_A3_ja.pdf1.23 MB

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