アジアモンスーン地域の天水稲作における最適播種期予測による収量改善
全球スケールの季節予報を統計的にダウンスケーリングした気象予測値をモンスーンアジアの100 km2程度の天水稲作地域に適用できることを明らかにした。これにより、作物生育モデルを使った最適播種期の予測が可能となり、農家の収量を改善できる。
背景・ねらい
水供給のほとんどを降雨に依存する天水稲作の収量は灌漑稲作の約半分であるが、将来の食料問題に向け、天水稲作での安定かつ高位なコメ生産が必要である。しかし、天水稲作地域の降雨パターンは毎年一定でないため、収量の高位安定化に必要な播種時期の最適化を農民の経験だけで行うことは難しい。この問題を解決するため、稲生育と収量をシミュレーションする作物生育モデルに、数ヶ月~1年先の気象予測に用いられる季節予報モデルを適用した収量予測技術の開発を行う。作物生育モデルの一つであるORYZAは日別の気象データにより播種時期別の収量を求めることができる。また、季節予報モデルは、アジアモンスーンの発生に深く関わるエルニーニョ・南方振動の予測に優れるSINTEX-F(国立研究開発法人 海洋研究開発機構により開発)を用いた。
成果の内容・特徴
- 地球全体を対象とする季節予報モデル(SINTEX-F)からの予測値を、統計的にダウンスケーリングしバイアス補正を行うことにより、100 km2程度の複数の天水稲作地域に応用する。これにより、モデルからの予測値(補正値)は現地気象観測値に近似する(図1)。
- 稲作物生育モデル(ORYZA)の収量予測精度は、天水稲作で播種時期を変えて栽培する場合でも高い(図2)。
- ORYZAの気象データとして、現地気象観測値と補正値を使用する場合の収量を比較する。インドネシア及びフィリピンの天水稲作地域の稲収量は補正値を使って予測ができる(図3)。
- インドネシア中部ジャワ州の天水稲作地域で、最適播種時期を予測し奨励施肥法でCiherang種を栽培する場合の予測収量と農家圃場の平均収量を比較する。予測情報にしたがって最適時期に播種を行う農家の収量は高く、予測情報が無く最適播種時期を逃した農家の収量は低い(図4)。なお、対象地での天水稲作の平均収量は3.42 t ha-1 (Boling et al. 2008)である。
成果の活用面・留意点
- 得られた成果は、天水稲作用の意思決定支援システムであるWeRiseの予測精度の改善、およびインドネシアで運用中の水稲栽培意思決定システムの機能補完に活用できる。
- 収量改善には、最適播種時期と共に適切な施肥管理も必要である。
- 補正値は年一回更新が必要であり、そのためには季節予報の更新費用として100 km2当たり6万円程度必要である。継続的なデータ更新のためには、東南アジア等の対象国で入手可能な将来予測値の利用について検討する必要がある。
- 作物生育モデルは、作物の生育データ、土壌物理化学データ、現地気象データが必要であり、対象とする天水稲作地域でのデータベース構築が必要である。
具体的データ
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図1 統計的ダウンスケーリングによる気象データのバイアス補正効果
A1, A2:フィリピンの対象地、B1, B2, B3:インドネシアの対象地。 -
図2 ORYZAによる播種時期別収量予測精度
赤はIR64種、青はCiherang種、各印は異なる播種期を示す。 -
図3 補正値を作物モデルに用いた場合の予測収量の精度
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図4 最適播種期の予測による農家収量の改善
補正値とORYZAにより求められた最適播種期予測があった農家と無かった農家の実測収量を示す。農家(予測あり)と農家(予測なし)を各5戸無作為に選出後、前者には播種時期(11月6日~12月10日)と品種を指定、後者には品種のみを指定して栽培。後者は10月10日~10月25日の期間に播種が行われた。異なるアルファベットは Tukey 法により 5%水準で有意差があることを示す。
- Affiliation
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国際農研 生産環境・畜産領域
- 分類
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研究
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 気候変動対応
拠出金 » IRRI-日本共同研究プロジェクト
- 研究課題
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気候変動に適応した水稲栽培システムの開発
- 研究期間
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2018年度(2011~2020年度)
- 研究担当者
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林 慶一 ( 生産環境・畜産領域 )
Llorca Lizzida ( 国際稲研究所 )
Agbisit Ruth ( 国際稲研究所 )
Bugayong Iris ( 国際稲研究所 )
石丸 努 ( 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) )
- ほか
- 発表論文等
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Hayashi K et al. (2018) Agricultural Systems, 162:66-76
- 日本語PDF
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- ポスターPDF
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