⼟壌改良資材のナノ加⼯による施⽤効果の向上

要約

石灰をナノ加工することで、土壌下方への移動が容易になる。リン鉱石をナノ加工し、酸性土壌にヘクタールあたり1,000 kg施用することによって、土壌酸度が矯正されるとともに、植物体にリンが吸収され、植物の生育が良くなる。

背景・ねらい

世界の熱帯地域の43%を占める酸性土壌では、土壌の酸性が有効態リン、カルシウムの低下やアルミニウム等の毒性を引き起こす原因となり、農業生産上の深刻な問題となっている。低リン土壌の改善や酸度矯正のため通常、リン酸肥料や石灰が施用されるが、価格の上昇や肥効上の問題等があり、代替資材の開発や資材の改良が望まれている。リン鉱石はアフリカ等発展途上国を含む全世界に分布し、安価で入手可能なリン資源であり、含まれる石灰分による酸度矯正効果も期待されるが、水への可溶化率が低く実用的でない。石灰は土質、水分の有無等を問わず難移動性で、土壌表層から年間数cmしか下方移動しない(Caires et al., 2005)ため、下層土の酸度を矯正するためには、鋤き込み作業が必ず必要になる。これらの問題を解決するため、肥料等資材のサイズをできるだけ小さくすることが有効であることが示唆、提案されている(Devinita et al., 2018, Liu and Lal 2015)。

ナノ加工技術は物質のサイズをナノレベルまで小さくすることができるため、とりわけ不耕起条件での物質の土壌表層からの下方移動を容易にし、また物質の表面積を増やすことによって土壌や土壌水等との化学反応を促進することが期待される。そこで石灰やリン鉱石をナノ加工(図1)することにより、酸度矯正機能やリン酸肥料としての施肥効率の改善・向上を目指す。

成果の内容・特徴

  1. 酸性土壌(石垣島産の国頭マージ)を詰めたカラム試験において、ナノ加工した石灰は表層施用後速やか(40日)に土壌の下方(10~20 cm)へ移動する。
  2. 移動したナノ加工石灰は、少量(40~80 kg ha-1)で酸性土壌のpHを矯正するとともにアルミニウム毒性を緩和する(図2)。
  3. ブルキナファソ産のリン鉱石をナノ加工(図1)することにより、鉱石中のクエン酸可溶リン(2%クエン酸抽出)が6%から22%に改善される。
  4. ナノ加工リン鉱石を酸性土壌へ施用することにより、酸度が矯正され、有効態リンが増加するなど、作物にとってより良い生育環境となる(図3)
  5. 1,000 kg ha-1 (120 kg P ha-1)のナノ加工リン鉱石を施用した時に、アルカリ性土壌を好むホウレンソウで十分な生育が得られる(図4)。

成果の活用面・留意点

  1. 本研究はブルキナファソ産リン鉱石を用い、石垣島産の国頭マージ土壌に施用して得られた成果であり、別の鉱床から得られたリン鉱石や異なる土壌を用いる場合は別途、成分分析や植物への施用効果に関する試験を行う必要がある。
  2. リン鉱石を実際の農業現場へ適用する際、ナノ加工リン鉱石の連続施用効果、石灰や過リン酸石灰との経済性比較などについて、現場の栽培・環境条件で検討を行う必要がある。

具体的データ

  1. 図1 ナノ加工の工程

    図1 ナノ加工の工程
    ブルキナファソ産リン鉱石を使用
    100 nm程度まで加工が可能

  2. 図2 ナノ加工石灰の移動に伴う土壌化学成分の変化

    図2 ナノ加工石灰の移動に伴う土壌化学成分の変化
    ナノ加工石灰施用40日後の結果。***; p<0.001 (ANOVA)。
    植物に対するアルミニウム毒性の閾値;0.56 cmolc kg-1
    2019_A04_fig02_sp_ja.png

  3. 図3 ナノ加工リン鉱石施用による土壌化学成分の変化

    図3 ナノ加工リン鉱石施用による土壌化学成分の変化
    ナノ加工リン鉱石70日後(ホウレンソウ播種前21日間培養+播種後49日)の結果。各成分の異なるアルファベットは5%水準で有意差があることを示す(Tukey HSD法)。
    2019_A04_fig03_sp_ja.png

  4. 図4 ナノ加工リン鉱石施用がホウレンソウの生育に及ぼす影響

    図4 ナノ加工リン鉱石施用がホウレンソウの生育に及ぼす影響
    ナノ加工リン鉱石施用70日後(ホウレンソウ播種前21日間培養+播種後49日)の結果。各成分の異なるアルファベットは5%水準で有意差があることを示す(Tukey HSD法)。
    2019_A04_fig04_sp_ja.png

Affiliation

国際農研 熱帯・島嶼研究拠点

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

資源・環境管理

予算区分

交付金 » アジア・島嶼資源管理

研究期間

2019年度(2016~2020年度)

研究担当者

大前 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001794

Abd El-Halim Awad Abd ( タンタ大学 )

ほか
発表論文等

Abd El-Halim AA and Omae H (2019) Soil Science and Plant Nutrition 65(4):386-392

https://doi.org/10.1080/00380768.2019.1620082

Abd El-Halim AA and Omae H (2019) Soil Use and Management 35:683-690

https://doi.org/10.1111/sum.12525

日本語PDF

2019_A04_A4_ja.pdf682.94 KB

2019_A04_A3_ja.pdf266.8 KB

English PDF

2019_A04_A4_en.pdf273.38 KB

2019_A04_A3_en.pdf304.77 KB

ポスターPDF

2019_A04_poster_fin.pdf315.11 KB

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