幼苗期におけるイネ根系分布に関する簡易検定法
播種箱を用いたイネ冠根の伸長方向および数を分布として評価する簡易検定法は、従来のバスケット法に比べて、調査期間を短縮し、かつ単一面積当たりの調査個体数を大幅に増やすことができ、多様な遺伝資源や大規模な雑種集団における変異の解析に利用できる。
背景・ねらい
イネの草型に関する遺伝的改良は広く育種現場で進められてきたが、根型についての研究や育種はほとんど進んではいない。これは地下部に存在する根の評価が難しいためである。また幼苗期におけるバスケットを用いた従来の評価法は、多くのサンプルを一度に扱うことができず、多数の遺伝資源や雑種集団を用いた解析には適していない。根型の遺伝変異の解明や遺伝子分析の効率化を図るためには、冠根の伸長方向と出現頻度を分布として正確に評価できる簡易検定法が必要である。
成果の内容・特徴
- 開発した幼苗期におけるイネ根型に関する簡易検定法は、播種箱(土付成苗なえどこ、みのる産業株式会社)で幼苗を育成し(図1A)、各冠根の水中における水面からの角度を9段階のスコアー(10:0-10°、20:10-20°、30:20-30°、40:30-40°、50:40-50°、60:50-60°、70:60-70°、80:70-80°、90:80-90°)で根の伸長方向および数を計測し、分布として評価する(図1B)。
- この播種箱法を用いると、インド型品種IR 64の遺伝的背景を共通して持つ同質遺伝子系や染色体断片挿入系統間では、浅根性から深根性のものまで幅広い根系分布の変異を詳細に解明することができる。(図2)。
- 播種箱法で得られたイネ根型に関する結果は、Hanzawa et al. (2013)のバスケット法のものと一致する(図3)。
- 播種箱法はバスケット法に比べて、試験期間を短縮し、扱える個体数も大幅に増すことができる(表1)。
成果の活用面・留意点
- イネ冠根の分布に関する本簡易検定法は、今後の根型の遺伝子分析や育種研究を行う上での有効な手法となる。
- 本検定法は幼苗期における評価法であるが、生育中期・後期における根型との関連性を解明していく必要がある。
- 冠根の分布を制御する遺伝的要因の解明を進めるとともに、異なる根型が地上部の生育に与える影響を解明していく必要がある。
具体的データ
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播種箱で14日間育成した後 (A)、水中における水面からの幼苗における冠根の伸長角度を測定する (B)。(Tomita et al. 2017、一部改変) -
[ ]: 冠根伸張角度の平均 ± SD
( ): 全冠根数の平均 ± SD
(Tomita et al. 2017、一部改変) -
IR 64の遺伝的背景を持つ8系統とIR 64の冠根あたりの伸張角度の比較。高い相関(0.86**)が認められ、相関式はy = 1.3976x - 45.436で表される。 -
表1 播種箱とバスケット法による冠根伸張角度の計測法の差異
項目 育苗箱法 バスケット法 栽培日数 14 28 1m2当たり栽培可能な個体数 137 44 伸長角度のスケール 9段階
(0-90°)4段階
(<0,0-30, 30-60, 60-90°)播種箱法はバスケット法に比べ、調査期間の短縮、調査規模の拡大、より詳細な評価が可能
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 不良環境耐性作物開発
- 研究期間
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2017年度(2016~2017年度)
- 研究担当者
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福田 善通 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
小原 実広 ( 生物資源・利用領域 )
冨田 朝美 ( 筑波大学 )
佐藤 雅志 ( 東北大学 )
科研費研究者番号: 40134043宇賀 勇作 ( 農研機構 次世代作物開発研究センター )
- ほか
- 発表論文等
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Tomita A et al. (2017) Breeding Science, 67: 181-190
- 日本語PDF
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A4 294.83 KB
A3 286.58 KB
- English PDF
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A4 267.94 KB
A3 196.37 KB
- ポスターPDF
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