アジアイネとアフリカイネ種間の雑種不稔性は4倍体化により軽減できる

関連プロジェクト
熱帯作物資源
国名
アフリカ
要約

アフリカイネはアジアイネの育種のための重要な遺伝資源であるが、両種間のF1雑種は花粉が不稔となり種子が実らず、両種間の遺伝子交換は難しい。花粉不稔の原因は雑種不稔遺伝子座と呼ばれる遺伝子座群であるが、このうち特定のメカニズムをもつ不稔遺伝子座の不稔効果は、F1雑種の全ゲノムを倍加(4倍体化)させることで軽減できる。4倍体化してアジアイネーアフリカイネ種間の遺伝子交換を加速させることで、両種の形質を組み合わせた多様な雑種を育成できる可能性がある。

背景・ねらい

 世界中で栽培されるイネはほぼ全てアジアイネ種(Oryza sativa)に属し、高収量性や良食味性をもつ新品種の多くはアジアイネ種内の交配により作出される。アフリカイネ種(O. glaberrima)は西アフリカの限られた地域で栽培される種で、アジアイネと異なった病虫害抵抗性や低肥沃土壌での栽培適性を示すため、両種を掛け合わせることで、従来はアジアイネの栽培が難しかった地域・環境でも栽培可能な品種を育成できる可能性がある。しかし、アフリカイネとアジアイネ種間のF1雑種*は花粉が完全不稔となる(雑種不稔性)ため、種子が実らない。したがって、種子稔性をもつ種間雑種を育成するためには、花粉不稔を克服する必要がある。
 本研究では、種間雑種の倍数性**を操作し2倍体から4倍体とすることで、花粉不稔の克服に取り組むとともに、4倍体雑種であれば自殖により種子が実ることを明らかにする。

*F1雑種:2つの種/系統を交配して育成した1世代目の雑種。
**倍数性:生物の生存に必要な一揃いの遺伝子セット(ゲノム)を何セットもっているのかを表す。イネも含め多くの生物はゲノムを2セットもつ2倍体である。2倍体のイネに特定の処理を施すことで、ゲノムを4セットもった4倍体のイネを育成できる。

成果の内容・特徴

  1. O. sativa種内の3つのサブグループ(Os1: japonica、Os2: indica、Os3: aus)と、O. glaberrima(Og)のF1雑種の花粉稔性を観察(図1)。2倍体F1雑種は花粉稔性が0%(完全不稔)だが、4倍体F1雑種では5.7~28.1%に回復し、自殖により種子が得られる。花粉稔性の回復は、O. sativa種内のサブグループを問わない。
  2. 4倍体化にともなう花粉稔性の回復メカニズムは、稔性小胞子(花粉に発達する前の細胞)の遺伝解析により説明される(図2)。例示したS2座は不稔遺伝子座の一つで、2倍体では、Og型対立遺伝子(アレル)をもつ花粉は全て不稔となる。しかし4倍体では、Og型アレルをもっていたとしても、同時にOs型アレルをもつ場合その花粉は稔性を示す。

成果の活用面・留意点

  1. 本研究において確立された4倍体雑種の利用により、アジアイネ-アフリカイネ種間の遺伝子交換がより容易に行えるようになり、多様な形質をもつ雑種を育成できる可能性がある。
  2. 4倍体雑種を葯培養することで、稔性小胞子に由来する2倍体の種間雑種を作出することができる。これらの2倍体雑種における花粉稔性や農業形質はまだ明らかではないが、2倍体雑種は両親の中間的な遺伝的組成をもつことが期待され、今後更なる調査が必要となる。

具体的データ

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

情報

予算区分

交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 熱帯作物資源

科研費 » 基盤研究A

科研費 » 基盤研究B

科研費
研究期間

2021~2025年度

研究担当者

國吉 大地 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 70912559

石原 ( 北海道大学 )

山森 晃一 ( 北海道大学 )

小出 陽平 ( 北海道大学 )

科研費研究者番号: 70712008

貴島 祐治 ( 北海道大学 )

ほか
発表論文等

Kuniyoshi et al. (2024) GENETICS 228: iyae104.
https://doi.org/10.1093/genetics/iyae104

日本語PDF

2024_C04_ja.pdf1.43 MB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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