植物肉の栄養・健康面、原料面と環境面の特徴に対する中国消費者の嗜好分析
健康や環境への関心が高まる近年において注目を集める植物肉には、従来の食肉と異なる特徴があり、消費者嗜好の理解に基づく政策立案は持続的な食料システム実現に貢献し得る。中国における大規模調査は、消費者が、植物肉の主要な13の特徴のうち、環境面や原料面の特徴よりも、豊富な食物繊維、ホルモン剤非含有、コレステロール非含有など栄養面や健康面の特徴を重視する傾向を示す。一方、消費者の社会的特性に応じて嗜好パターンは不均一であり、健康的な栄養素を好む、健康に有害な成分を嫌うなどの傾向がある。
背景・ねらい
所得水準の上昇や食習慣の変化により、世界で肉類の消費量が増加しつつある。OECD/FAOは2030年の世界の肉類由来タンパク質の需要は、2018~2020年の基準期間平均と比較して14%増加すると予測しており、動物性タンパク質の需要・供給増にともなう人間の健康と環境の持続可能性への影響に関する懸念が課題となっている。近年、大豆や小麦、エンドウ豆、こんにゃく、ソラマメなどの植物由来の原料を用いて作る代替肉の一種である植物肉は、栄養・健康面、原料面、環境面といった多くの利点から、持続的な食料システムに重要な貢献を果たすことが期待されている。従来の食肉と比べると、植物肉には様々な異なる特徴があり、食品メーカーはこれらの特徴を消費者に示すことで植物肉の効用をアピールすることができる。しかし、植物肉はまだ市場で広く普及していないため、消費者の嗜好に関する理解はまだ不十分である。植物肉に対する消費者の認識や受容をより深く理解し、その普及を促進するためには、消費者の嗜好をより詳しく研究する必要がある。
従来の食肉の消費者が植物肉の潜在的な消費者であることを踏まえ、本研究では、世界最大の食肉および植物肉消費市場であり世界最大の食肉輸入国でもある中国の主要な5つの都市を対象に、ベスト・ワースト・スケーリング手法(BWS手法、図1)を用いて2,500人を対象とした大規模な消費者調査を実施する。定量化しやすい植物肉の13の特徴を文献調査に基づいて選び出し、消費者がどの特徴を最も重視しているかを計量分析により明らかにしたうえで、消費者の社会的特性に応じた嗜好パターンのばらつきについても検証する。
成果の内容・特徴
- 植物肉の主要な13の特徴のうち、調査対象の消費者が最も重視するのは豊富な食物繊維(1位)、ホルモン剤非含有(2位)とコレステロール非含有(3位)である。植物肉を選ぶ理由として、消費者の17%、13.1%、11.7%がそれぞれ、豊富な食物繊維、ホルモン剤非含有とコレステロール非含有を最も重要な理由として挙げている(表1)。
- 最も重視されていない特徴はエンドウ豆たんぱく質(11位)、炭素ラベル(12位)、ビーガンフォーミュラ(13位)であった。栄養・健康面、原料面、環境面の特徴のうち、調査対象の消費者は栄養・健康面の特徴を重視する傾向がある(表1)。
- 回答者の選択傾向に基づいて、潜在クラスモデル(表2注)を用いて3つのグループに分類し、各消費者を最も所属する確率が高いグループに割り当てた。特徴に対する重要性の順位はグループ間で異なっていたが、全てのグループの消費者が最も重視する3つの特徴は、栄養・健康面の特徴であった(表2)。
- 消費者の社会的特性に応じ、栄養素や成分に対する嗜好は不均一である。健康的な栄養素を好むグループは、健康に有害な成分を嫌うグループより、所得が高く、年齢が若く、男性が多く、肉類の支出が高い(表2)。
成果の活用面・留意点
- これらの成果は植物肉に対する消費者の嗜好についての理解を深め、植物肉の普及を促進する政策立案の科学的根拠として用いることができ、持続的な食料システムの実現に貢献することが期待される。
- 消費者の嗜好は不均一であるため、それに応じて特定な消費者層をねらった普及促進方針を策定することができる。
- 中国の主要な5つの都市の消費者を対象として得られた成果であり、その他の市場を利用する場合は、現地の消費者の特性等を十分に考慮する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 戦略情報
- 研究期間
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2022~2024年度
- 研究担当者
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呉 文超 ( 社会科学領域 )
科研費研究者番号: 50868693Yuan Rao ( Guizhou University )
Jin Shaosheng ( Zhejiang University )
- ほか
- 発表論文等
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Wu et al. (2024) Future Foods 9: 100384.https://doi.org/10.1016/j.fufo.2024.100384
- 日本語PDF
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2024_C01_ja.pdf1.28 MB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。