中国半乾燥地酪農小規模層に対する有機野菜栽培導入の経営的効果

国名
中国
要約

中国半乾燥地域の酪農小規模層は、飼料高騰により経営の持続性が困難になりつつあるが、牛ふんの発酵熱等を利用した有機野菜栽培システムを導入することによって、経営状況を改善させることができる。

背景・ねらい

中国半乾燥地域では、近年の飼料価格高騰により、酪農小規模層における持続的経営が危機的状況にある。事態に対処するため、畜ふんを利用したトウモロコシ栽培により、自給飼料の確保に努める酪農家も一部出ているが、水資源の浪費ならびに土壌膨軟化による風食被害の増大等が危惧される。そこで、単位面積当たりの収益性が高い作目の導入と酪農作業に支障をきたすことのない省力的栽培法の検討を通じ、酪農小規模層の経営改善につながる有機野菜生産システムを解明する。

成果の内容・特徴

  1. 北京等の消費者1,200戸に実施した調査では、有機農産物の価格が一般の農産物の価格の2倍を超えても購入する意思があるとする消費者は11.9%にとどまり、輸送コストが大きくなる遠隔産地では、低コスト型の有機栽培技術が必要である。
  2. 試験地、内蒙古自治区蘇尼特右旗で問題となる強風や地温変動等に対処するため、牛ふんを播種床後方に80cm堆積し、その発酵熱等を利用する野菜栽培システムを作った(図1)。このシステムによって、防風林設置や育苗施設建設等の初期投資が不要となるとともに、日常的管理は潅漑ポンプの開閉程度で済むことから、酪農作業に影響を与える可能性も小さい。
  3. ミニカボチャ(品種名:貝貝)の栽培では、基肥として前年に堆肥化した牛ふんを、追肥としては当年に堆積した牛ふんに散水することで得られる牛ふん液肥を用い(表1)、幼苗期に甚大な被害をもたらすネキリムシには塩ビ管によって侵入を防ぐ(図1)などし、5aの試験圃場に直播した170株から993.0kg(9個/株、649g/個)の収量が得られる。
  4. 2012年、2013年に生産したミニカボチャを、北京の有機農産物生産・販売企業に委託し、消費者に無料で配布したが、消費者の65.8%が16.0元/kg以上の支払意思額を表明した。この支払い意思額と表2の生産・販売コストから、酪農小規模層が有機野菜栽培を導入することによって、1,021.4元/aの収益が期待できる。

成果の活用面・留意点

  1. 牛ふん中にはナトリウム等、作物の生育にとって望ましくない塩類も含まれているため、追肥を実施する際には、牛ふん上への長時間の散水は避けるべきである。
  2. 政府の有機認証取得コストは、新興・小規模産地が負担できる金額ではないため(審査経費だけでも15,000元が必要)、生産物安全性の証明に関わるコストは、Webカメラ等を用いた自作のモニタリングシステム(1,503元/セット)の利用を前提としている。
  3. 試験地は海抜1,100mに位置し、紫外線の影響が深刻なため、耐候性を有する資材の採用を前提とし、資材費の計算においては耐用年数を3年間とした。紫外線の影響が小さい地域では、本成果が示す資材費を下げられる可能性がある。

具体的データ

  1. 図1 牛ふんの発酵熱等を利用した野菜栽培システムと地温等の推移

    図1 牛ふんの発酵熱等を利用した野菜栽培システムと地温等の推移
    * 栽培システム上に記された文字で、実線で囲われたものは主に春期、点線で囲われたものは主に夏期以降に期待される効果である。グラフ内の地温とは、地下5cmで計測した温度である。
    * 春の強風(最大瞬間風速約30m/s)を防ぐため、システムは強風の方角(西北西)を背に設置する。
    * 日常的潅水はパイプAから行うが、この潅水は牛ふん中を通過しない。一方、牛ふんの発酵調整および作物への追肥が必要なときには、パイプBから牛ふん中に散水する。

  2. 表1 牛ふん堆肥および液肥内の肥料成分 (%)

    表1 牛ふん堆肥および液肥内の肥料成分 (%)

    * 栽培期間中は、潅水と同時に計18回の追肥を行ったが、表中には分析可能な液量が得られた5回分のデータを示した。

  3. 表2 ミニカボチャの生産・販売コスト

    表2 ミニカボチャの生産・販売コスト

    期待収益額(元/a)は、(期待販売額×収量-生産販売コスト) で計算できる。すなわち、16.0元/kg×198.6kg/a-2,156.2元/a=1,021.4元/a となる。

Affiliation

国際農研 社会科学領域

分類

技術B

研究プロジェクト
プログラム名

農村活性化

予算区分

交付金 » 中国循環型生産

研究期間

2013年度(2013~2015年度)

研究担当者

中本 和夫 ( 社会科学領域 )

見える化ID: 001759

寧輝 ( 中国農業科学院農業経済発展研究所 )

( 中国農業科学院草原研究所 )

麗原 ( 中国農業科学院農業経済発展研究所 )

ほか
発表論文等

楊ら (2013) 農業経済研究2012増刊号: 159-166

日本語PDF

2013_C03_A3_ja.pdf296.49 KB

2013_C03_A4_ja.pdf487.42 KB

English PDF

2013_C03_A3_en.pdf143.3 KB

2013_C03_A4_en.pdf213.11 KB

ポスターPDF

2013_C03_poster.pdf315.14 KB

関連する研究成果情報