統合環境制御と補光の併用は亜熱帯地域のイチゴ生産を増収させる
関連プロジェクト
実用化連携
国名
東南アジア
要約
高温多湿な亜熱帯地域においても統合環境制御システムを用いることにより、イチゴの収穫量は国内平均と同程度に増加する。また日射量が少ない冬季や雨季においては、環境制御に加えて日中にLED補光することで収穫量は増加し果実糖度も向上する。
背景・ねらい
高品質なイチゴ(Fragaria × ananassa Duch.)は東南アジアをはじめとする熱帯・亜熱帯地域でも需要が高い。しかし、イチゴの商業的な栽培のほとんどは冬季の気温が-20℃から15℃といった冷涼な地域で行われており、高温多湿な環境でのイチゴ栽培技術は確立されていない。高温多湿な環境でイチゴ生産を行う方法の一つとして、ハウスなどの施設を用いて温度管理や補光などの環境制御を行う方法が考えられる。なかでも統合環境制御システムは、気温や湿度、日射量などをモニタリングしながらプログラムに基づいて複数の環境制御装置を動作させるシステムである。沖縄県石垣市の熱帯・島嶼研究拠点において熱帯・亜熱帯地域向けに統合環境制御システムを導入したアジアモンスーンモデル植物工場の開発を行っており、同システムを用いたイチゴ生産技術の開発を進めている。近年、イチゴなどの生産向上のためにLED照明による補光技術を用いた研究が各地で行われている。熱帯・亜熱帯地域においても、雨季では高温でありながら日射量が低下する気象条件が続くことから補光技術は収量や品質向上に有効であると考えられるが、熱帯・亜熱帯地域での補光効果を検証した試みは少ない。
本研究では、熱帯・島嶼研究拠点内で環境制御を行わないハウス(対照区)と統合環境制御を行うハウス(環境制御区)、統合環境制御に加えて日の出から日没までLED補光を行うハウス(環境制御+LED区)の3棟を用いてイチゴ2品種(‘よつぼし’、‘紅ほっぺ’)を栽培し、生育、収穫量、果実重、糖度を調査し、亜熱帯地域における統合環境制御やLED補光の効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 環境制御区と環境制御+LED区では夜間冷房や遮光、換気、細霧冷房を組み合わせて動作することにより日平均気温が対照区よりも低い(表1)。また、培地温も培地冷却により環境制御区と環境制御+LED区では対照区よりも低く、亜熱帯地域においても統合環境制御を導入することでハウス内気温は低く制御できる。
- 亜熱帯地域である石垣市においても冬季には天候に関係なく環境制御+LED区では光合成光量子束密度は増加するが(図1a, b)、1日の日射量が20MJ m-2を超える4月以降は晴天時の光合成光量子束密度はハウス間で差がない(図1c)。一方で4月以降であっても曇天時にはLED補光により光合成光量子束密度は増加する(図1d)。
- 環境制御区では統合環境制御により収穫量は日本の国内平均と同等の収穫量(およそ410g/株:3.3 t/10aで10aあたり8,000株とした場合)となる(図2)。また、果実重6g以上の可販果率も統合環境制御により向上する。
- 環境制御+LED区では収穫量は環境制御区よりも有意に増加する(P<0.05)が、可販果率は変わらない(図2)。
- 統合環境制御により収穫果実数、果実重、果実糖度は、対照区と比べて有意に増加し(P<0.05)、LED補光を併用することで果実数と果実糖度はさらに増加する(P<0.05)(表2)。
成果の活用面・留意点
- 統合環境制御の導入により高温多湿な環境においても日本品種のイチゴの収穫量と品質は向上する。
- 亜熱帯地域においても日中の補光は収穫量と果実品質を向上させる有効な技術である。一方で、日射量が1日あたり20MJ m-2を超える環境では効果が限定的であることから、LED照明の導入については地域の気象条件を考慮する必要がある。また、電力コストも考慮したより効率的な補光方法を検討していく必要がある。
具体的データ
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 情報プログラム » 実用化連携
受託 » シチズン電子 熱帯・亜熱帯地域のイチゴ栽培技術最適化とゾーニング
- 研究期間
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2021~2022年度
- 研究担当者
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中山 正和 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
ORCID ID0000-0002-5025-9585中澤 義英 ( シチズン電子株式会社 )
- ほか
- 発表論文等
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Nakayama and Nakazawa. (2023) Sci. Hortic. 321: 112349.https://doi.org/10.1016/j.scienta.2023.112349
- 日本語PDF
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2023_C01_ja.pdf493.27 KB
- English PDF
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2023_C01_en.pdf272.99 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。