畝を用いた圃場における作物干ばつストレス実験系の開発
背景・ねらい
近年、干ばつの発生頻度と被害は増加しており、世界の食料供給が脅かされている。干ばつに強い作物の開発を目指して、これまで、実験室を中心に多くの干ばつ研究が進められ、分子レベルで植物の乾燥ストレス応答メカニズムが明らかにされてきた。一方で、圃場における植物の干ばつストレス応答は、実験室で解明されてきた応答メカニズムとは異なる点があることも指摘されているが、未だ不明な点が多い。干ばつに強い作物の開発において、圃場における植物の干ばつ耐性試験や干ばつ応答メカニズムの解明は必須であるが、環境が不規則に変動する圃場では、一定の干ばつ環境を再現することは容易ではない。圃場干ばつ試験では、潅水の有無による条件設定が一般的であるが、降雨が大きく影響するため、毎年の安定した試験は困難である。また、降雨による影響を排除するために、レインアウトシェルターなどの設備を用いた干ばつ研究も進められているが、コストや汎用性の面において課題もある。そこで、本研究では、安価で簡便かつ安定して実施することが可能な圃場干ばつストレス実験系の開発に取り組む。
成果の内容・特徴
- 通常区(畝無し区)と比較して、高さ30cmの畝条件下(畝区)では、土壌水分が一定レベル低下する(図1A)。畝による低水分の誘導は、6年以上の圃場試験を通して、様々な気象条件下でも再現できることを実証済みである。
- 土壌中の主要な栄養成分は、ダイズの播種時期および収穫期いずれにおいても、通常区と畝区で同程度であり、畝は土壌養分に影響を与えない(図1B)。
- 畝区で栽培したダイズは、通常区と比較して生育が顕著に抑制され、収量も顕著に減少する (図2)。
- 畝区を含む試験区に潅水を行うと、畝区と通常区との生育差が小さくなることから、畝区におけるダイズの生育や収量の抑制は、主に土壌水分を反映している (図3)。
成果の活用面・留意点
- 本干ばつストレス実験系は、世界の様々な地域の圃場に適用出来ると考えられ、干ばつ耐性系統の選抜や作出を促進することが期待される。
- 対象とする植物や土壌の種類、目的とする乾燥ストレスレベルに合わせて、畝の高さや幅などを検討する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 食料プログラム » レジリエント作物
受託 » JST/JICA SATREPS
受託 » ムーンショット型農林水産研究開発事業
交付金 » 不良環境耐性作物開発
交付金 » 環境ストレス耐性
- 科研費
- 研究課題
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ムーンショット型農林水産研究開発事業
- 研究期間
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2015~2023年度
- 研究担当者
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永利 友佳理 ( 生物資源・利用領域 )
小林 安文 ( 生物資源・利用領域 )
藤井 健一朗 ( 生物資源・利用領域 )
馬場 隼也 ( 生物資源・利用領域 )
藤田 泰成 ( 生物資源・利用領域 )
伊ヶ崎 健大 ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 70582021大矢 徹治 ( 生産環境・畜産領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Nagatoshi et al. (2023) Nature Communications 14: 5047.https://doi.org/10.1038/s41467-023-40773-1
- 日本語PDF
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2023_B02_ja.pdf965.97 KB
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2023_B02_en.pdf540.84 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。