メタ解析で解き明かされたイネの再生特性と再生イネの穂数依存型の収量構成
背景・ねらい
再生二期作は、育苗、代かき、田植えを省略できるため、低投入・低コストの栽培方法として注目される一方、慣習の水稲二期作に比べ、大きく減収する点が課題である。特にアジアでは近年、農業労働者の高齢化や減少が深刻化しているため、再生二期作への関心が高まっており、これまでに、再生能*の高い品種や形質の探索に関する研究が数多く実施されている。しかし、遺伝的・環境的要因の違いから、研究間で異なる見解も多く、イネの再生特性を分かりにくくしている。本研究では、世界14か国で実施された51件の栽培試験データを用いたメタ解析**により、イネの収量性、早晩生、栽培地などの栽培条件の違いが収量関連形質の再生能に与える影響を評価し、イネの再生特性と収量性との関係について明らかにすることを目的とする。
*本研究では再生能(あるいは再生率)を親イネと再生イネの最終的な生長比と定義する。
**複数の研究結果を統合し、全体像や傾向を明らかにする手法。
成果の内容・特徴
- 1976年から2022年までの親イネと再生イネの栽培試験データから、9つの収量関連形質(草丈、茎数、穂長、一穂籾数、穂数、千粒重、登熟歩合、生育期間、籾収量)および栽培地や施肥量等の栽培条件の情報を抽出し、データベースを構築する。統計分析手法を用いて、収量関連形質の再生率、品種(収量性、早晩性)や栽培環境(地域、窒素施用量)などの遺伝的および環境的要因の差異が再生率に与える影響、再生率と収量性との関係を明らかにする。
- 再生イネの生育期間は、親イネに比べて41%短縮し、一穂籾数や籾収量はそれぞれ48%、56%と大きく減少する一方で、茎数や穂数はそれぞれ19%の増加に留まる(図1)。これらの結果は、再生イネ栽培は収穫を早め、収量構成要素の役割を変化させることを示している。親イネでは収量構成が1つの穂に多くの籾をつけることで収量を確保する「穂重型」に対して、再生イネは穂の数が多く小さい穂をつけることで収量を確保する「穂数型」となる(図2)。
- 再生イネの茎数は、品種や栽培環境などの遺伝的および環境的要因の影響を受けやすく、変動しやすい一方、一穂籾数、生育期間、千粒重は比較的影響を受けにくいことを示唆している(図3)。
- 各形質の再生率における相関・因果関係の分析から、生育期間は籾収量、草丈、穂長に、穂長は一穂籾数に、そして茎数は草丈、穂数に有意な直接効果 (p<0.05)を示す(図4)。つまり、再生イネの生育期間の短縮により出穂が早まることで、一穂籾数の決定に影響を与える茎頂の生育や幼穂分化が制限される一方、穂数はそれほど増加しないため、その結果として籾収量が減少することを示唆している。
成果の活用面・留意点
- 再生率は再生二期作における適用品種、栽培環境の適応性、栽培技術に対する評価指標として、品種や栽培管理技術の開発に活用できる。
- 再生イネの収量は穂数に大きく左右されるため、イネの再生を促進させ、茎数を確保することが重要な栽培管理の一つとなる。
- 本研究はメタ解析により、イネの再生特性の一般的な傾向を示したものであり、特定の栽培条件や品種によっては再生率の差異が大きくなる可能性がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合
科研費
- 科研費
- 研究期間
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2021~2023年度
- 研究担当者
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白木 秀太郎 ( 農村開発領域 )
Kywae ( ミャンマー国農業研究局 )
Thura ( ミャンマー国農業研究局 )
Lae Lae Mon ( ミャンマー国農業研究局 )
Thin Mar Cho ( ミャンマー国農業研究局 )
Kyaw Myaing ( ミャンマー国農業研究局 )
Nwe Ni ( ミャンマー国農業研究局 )
May That Oo ( ミャンマー国農業研究局 )
Loon Poe Poe ( ミャンマー国農業研究局 )
Aung kyaw Thu ( ミャンマー国農業研究局 )
- ほか
- 発表論文等
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Shiraki et al. (2024) Agron. J. 1–16.https://doi.org/10.1002/agj2.21521
- 日本語PDF
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※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。