ため池への流入量を精緻に算出できるカーブナンバー推定モデル
ため池からの越流水をかんがいに利用するには、降雨によりため池に流入する水量(流出量)を推計する必要がある。流域性状等から選択されるカーブナンバー(CN)の値に基づいて流出量を推計するカーブナンバー法において、回帰分析を用いてCN値を推定するモデルを適用することにより、流出量の精緻な算出が可能になる。
背景・ねらい
ガーナ国の北部州では、主に乾期における生活用水等の確保を目的としたため池(図1)が多く存在する。雨期になるとため池からは水があふれ、あふれた水(越流水)は下流で使われることなく河川に流失している。一方、サブサハラアフリカでは、95%の農家が天水に依存した農業を行っており、越流水をかんがいに利用することができれば、農業生産性が向上することが期待される。ため池の越流水をかんがいに利用するためには、降雨により流域から流出する水量(流出量)、ため池の貯水量の変化、発生する越流水の量を把握する必要がある。カーブナンバー法は、流域性状等から選択されるカーブナンバー(CN)の値、降雨量、流域面積を用いて流域からの流出量を計算する方法である(図2)が、ため池で観測する実測流出量に対して計算精度が低い。このため本研究では、ガーナ国北部州にあるため池を対象に、実測した流出量と降雨量データを用いた重回帰分析を行い、より精緻かつ実用的に流出量を算出できるCN値の推定モデルを提案する。
成果の内容・特徴
- 標準的な、流域性状等からCNの値を選び計算流出量を算出する方法(図3、標準CN)では、降雨毎の実測流出量を表せず(NSE注1=-4.46)、期間合計の実測流出量との差が大きい(図3)。
- 実測流出量に近づけるため、降雨ごとに実測流出量から逆算したCN値を目的変数に、日降雨量、旱天日数(降雨日と降雨日の間の無降雨日数)、1時間最大降雨量を説明変数とし、重回帰分析によりCN値を推定するモデルを考案した。
- 考案したモデルのうち、日降雨量(対数)、旱天日数、1時間最大降雨量を用いてCN値を推定する方法(方法(1))は最も再現性が良く、平均注2でNSE=0.74であった。
- 方法(1)の要素である時間単位の降雨データの入手が困難な地区では、日降雨量(対数)と旱天日数のみを用いてCN値を推定する方法(方法(2))が推奨される(NSE=0.51)。
- 方法(1)、方法(2)は、期間合計の実測流出量と計算流出量との差も小さい(図3)。
- これらの方法で推定したCN値を用いて降雨ごとの流出量を算出し、算出した流出量と水収支式からため池の貯水量の変化をもとめることにより、ため池の水位が2.1mを超えると生じる越流水の量(図4)を計算できる。方法(1)を2017年に適用すると、ため池から5,890m3の越流水が発生していたと計算できる(図5)。
- 本研究で考案したカーブナンバー推定モデルは、降水量データのみで流出量の推計が可能であり、データの入手が困難な途上国地域で活用できる。
注1:NSE(Nash-Sutcliffe efficiency)は–∞から1までの値をとり,1に近いほどモデルの適合性が高い。
注2:観測された3年分の降雨量と流出高のデータのうち、2年分のデータを用いて回帰係数を求め、残り1年分のデータを用いてNSEを求めている。
成果の活用面・留意点
- 越流水を稲作かんがいに利用する方法は「小規模ため池を利用した補給かんがい稲作マニュアル」として国際農研HPに掲載している。
- 本研究の結果は、ガーナ国北部州に多数存在するため池の1つを対象にしてモデル計算を行ったもので、他のため池で適用するにあたっては,回帰係数を求めなおす必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
拠出金 » 農林水産省
- 研究期間
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2015~2022年度
- 研究担当者
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廣瀬 千佳子 ( 元農村開発領域 )
見える化ID: 001803廣内 慎司 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001783山田 雅一 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001786岡 直子 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001802降籏 英樹 ( 農村開発領域 )
見える化ID: 001734堀野 治彦 ( 大阪公立大学 )
科研費研究者番号: 30212202 - ほか
- 発表論文等
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廣瀬ら (2022) 農業農村工学会論文集 90(1): II_29–II_41.https://doi.org/10.11408/jsidre.90.II_29「小規模ため池を利用した補給かんがい稲作マニュアル」 (2017)
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/manual_guideline/irrigation_man… - 日本語PDF
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2022_B12_ja.pdf835.07 KB
- English PDF
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2022_B12_en.pdf602.75 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。