熱帯低肥沃砂質土壌の可給態窒素量は吸光度測定法で推定できる
リン酸緩衝液を用いた土壌抽出液の280 nmでの吸光度は、西アフリカサヘル域の砂質土壌の可給態窒素量と有意な関係が認められ、また、トウジンビエの初期生育乾物重とも有意な関係が認められることから、その土地の窒素肥沃度を推定することができる。本法は分光光度計を用いた簡易で迅速な方法であり、途上国で適用可能である。
背景・ねらい
土壌の可給態窒素を測定するには、土壌を微生物活動に好適な条件で培養し、放出されてくる無機態窒素を測定する方法(インキュベーション法)が用いられるが、この方法では時間がかかる。そこで、pH7.0リン酸緩衝液により抽出される有機態窒素量を測定する方法が相関の高い簡易測定法として知られている。この有機態窒素量を簡便に推定する方法として、抽出液を280 nmの吸光度で測定する方法が開発されている。
本研究は、リン酸緩衝液を用いた土壌抽出液の280 nmにおける吸光度と可給態窒素量との関係およびトウジンビエの生育との関係を明らかにし、西アフリカサヘル域の低肥沃な砂質土壌に対する280 nm吸光度測定法の適用可能性を示すことを目的とする。
成果の内容・特徴
- 供試土壌は、西アフリカのニジェール国ファカラ地区の3村それぞれから表1に示した区分の場所を選び、表層0-15 cmを採取した。
- 播種後28日のトウジンビエ乾物重と可給態窒素量(インキュベーション法)との間には有意な相関(r = 0.69、1%水準)が認められる(図1)。西アフリカサヘル域の砂質土壌では、トウジンビエの初期生育は土壌の窒素供給量に影響される。
- 可給態窒素量(インキュベーション法)とリン酸緩衝液を用いた抽出液の280 nm吸光度との間には有意な相関(r = 0.77、1%水準)が認められる(図2)。この回帰式を用いて、リン酸緩衝液を用いた抽出液の280 nm吸光度からファカラ地区の土壌の可給態窒素量を求めることができる。本手法は可給態窒素20 mg kg-1以下の低肥沃な土壌にも対応できる。
- 播種後28日のトウジンビエ乾物重とリン酸緩衝液を用いた抽出液の280 nm吸光度との間には有意な相関(r = 0.79、1%水準)が認められる(図3)。リン酸緩衝液を用いた抽出液の280 nm吸光度を測定することにより、その土地の窒素肥沃度を推定することができる。
成果の活用面・留意点
- リン酸緩衝液を用いた土壌抽出液の280 nm吸光度測定法は、分光光度計があれば実施可能であるため、開発途上地域に導入しやすい手法である。
- インキュベーション法による可給態窒素量とリン酸緩衝液を用いた土壌抽出液の280 nm吸光度との関係は土壌により異なると思われるため、対象地域ごとに回帰式を作成することが必要である。
具体的データ
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表1 土壌試料を採取した場所の土地利用、管理方法および可給態窒素量
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1) 1 kgの土壌を充填したポットに窒素以外の養分を十分に供給してトウジンビエを播種し、28日後に地上部乾物重を測定した。
2) pH7.0リン酸緩衝液25 mlと風乾土壌5 gを気温20°Cで1時間振とうし遠心器にかけた後、上澄み液をNo.6の濾紙で濾過し、分光光度計にてこの抽出液の280 nmにおける吸光度を測定する。
- Affiliation
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国際農研 生産環境領域
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東京大学
- 分類
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研究
- 予算区分
- 交付金[アフリカ土壌]
- 研究課題
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西アフリカの半乾燥熱帯砂質土壌の肥沃度の改善
- 研究期間
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2005~2007年度(2003~2005年度, 2006~2010年度)
- 研究担当者
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鈴木 香奈子 ( 東京大学 )
岡田 謙介 ( 東京大学 )
林 慶一 ( 生産環境・畜産領域 )
松永 亮一 ( 生産環境領域 )
松本 成夫 ( 生産環境領域 )
飛田 哲 ( 生産環境領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Suzuki K, Matsunaga R, Hayashi K, Matsumoto N, Tobita S and Okada K. 2008. Applicability of phosphate buffer-extractable organic nitrogen as an indicator of available nitrogen in the sandy soils of the Sahel zone of Niger, West Africa. Soil Sci. Plant Nutr., 54: 449-458.
- 日本語PDF
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2007_seikajouhou_A4_ja_Part12.pdf445.15 KB