バリ島の水利組合(スバック)の資源配分における価値観の変化をゲーム理論で予測

関連プロジェクト
気候変動総合
要約

バリ島の水利組合(スバック)を対象に、エージェントベースモデルとゲーム理論を組み合わせた手法により資源利用における価値観を分析すると、協力関係の維持に価値が置かれている現在の資源配分が、労働資源の減少の進行に伴う価値観の変化によって、非協力的な資源配分になると予測される。

背景・ねらい

 水田灌漑において、気候変動の影響による降雨パターンの変化や農業人口の減少といった社会情勢の変化に適応して、持続的・効率的に資源を利用するためには、水利組合が果たす役割が重要である。水利組合では、水を巡って争いながらも、限りある資源を活用するためのルールに従った資源分配が行われる。持続的な資源管理を行うためには、水利組合にある資源利用のルールと資源利用における価値観を明らかにし、水争いの構造を理解することが重要である。インドネシアのバリ島にある水利組合(スバック)は、協力して水資源を配分することで知られる一方、社会情勢が変化する中、収穫労働資源が減少し、水利用に影響を与えている。
 そこで本研究では、水利組合が資源利用ルールに従いつつ取水行動を変えることで環境条件の変化に適応する様子を再現できるエージェントベースモデルと、水利組合の収穫労働資源の利用・配分戦略を評価できるゲーム理論を組み合わせることで、資源争いの分析手法を開発する。

 

成果の内容・特徴

  1. エージェントベースモデルを用いて、対象とした灌漑地区の用水路系統や資源利用における水利組合間の相互作用などの環境を再現する。そこに、属性の異なる水利組合が、資源利用ルールに従って資源を利用し、収穫量を最大とするようにイネを栽培する水配分システムを再現する。入力を水・労働資源とし、出力を、資源の利用量を反映する作付け体系、作期ごとの収量と年間の収穫量とする(図1)。
  2. ゲーム理論の一つである非協力ゲームを適用し、収穫労働者の配分順が、現在と同様に上流を優先とする戦略を「協力」、資本力ある方が優先される戦略を「非協力」とする。水資源の配分戦略は「協力」のみとする。地区内の水利組合を上流群と下流群に分け、2つの群の収穫労働資源の戦略の組み合わせを変えて収穫量(利得)をシミュレーションし、利得表を用いて分析する。また、社会情勢の変化に伴なって予測される収穫労働者の不足に関して、総収穫労働者数が「十分」、「少ない」、「とても少ない」の3種類のシナリオを用いる(図1の緑枠内)。
  3. 総収穫労働者数が「十分」の場合、上流群の合計収穫量はいずれの戦略でも同じであるが、下流群の合計収穫量は、「非協力」の戦略を選択する時により多くなる(図2)。現在選択されている戦略の組み合わせはこの結果と異なり、上流群と下流群がともに「協力」であり、スバックが収量の最大化ではなく、取水調整を行う協力関係の維持に価値を置いていることが示唆される。
  4. 総収穫労働者数が「少ない」又は「とても少ない」シナリオでは、複数の水利組合が同時に収穫を行えず、上流群と下流群はともに「非協力」の戦略を選択する。合計収穫量は最大になるが、スバック間の協力関係は弱くなることが予測される(図3の赤枠内)。これは、社会情勢の変化が進み、収穫労働資源が不足すると、非協力的な労働資源の利用に対する価値が高まることを示唆する。また、この現象は、他の限られた資源の効率的な配分にも影響を与えると考えられる。

 

成果の活用面・留意点

  1. 本モデルを活用することで、収穫労働者数の減少に対する対策などの事前評価が可能となる。
  2. 本モデルは、環境や社会情勢の変化に適応する新たな資源利用ルール作りの支援ツールとして活用できる。
  3. 収穫労働者の減少といった社会情勢に伴い資源利用ルール自体も変化する可能性があるが、本研究では考慮していない。

 

具体的データ

  1.  

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

環境

予算区分

交付金 » 第5期 » 環境プログラム » 気候変動総合

科研費

科研費
研究期間

2020~2022年度

研究担当者

大倉 芙美 ( 農村開発領域 )

科研費研究者番号: 10880297

Budiasa I Wayan ( Udayana University )

加藤 ( 東京農工大学 )

科研費研究者番号: 10302332

ほか
発表論文等

Okura et al. (2022) Agricultural Water Management 274: 107951.
https://doi.org/10.1016/j.agwat.2022.107951

日本語PDF

2022_A05_ja.pdf868.17 KB

English PDF

2022_A05_en.pdf680.09 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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